佐佐木實展「イ充つ」

4月22日thu―30日thu

vol.459

 佐佐木實の「書」に感じるのは――ある言葉を口にする。書く。そのとき、脳の神経細胞に瞬時にともるであろう無数の電球が一瞬、照射することばの震源地、混沌と、揺れる膨大なひだの光景だ。混沌から切り離され、ことばが一個の冷えた語になるとき、内部に、まだ燃えているマグマの湧出と言ってもいい。
 昨年末の盛岡の個展の「言論統制を受けて<ヒ>の一文字を象ることだけしか許されなくなったら」との想定のもと、展示された100以上の「ヒ」は、冷えた言葉がたったひとつの鋳型に押し込められてさえ、マグマの熱、内奥の混沌は残り、持続され得ると語るように思えた。
 佐佐木がなぜ、このように言葉の根に、源に、注意と意志と、創作の全精力を注ぐのかは、分からないけれど、こうして言葉の底にうごめくもの、その熱や渦は、私たち一人一人の生きることの熱に、息に、底でつながっている。(企画 大倉 宏)

PROFILE
佐佐木實(ささき みのる) 盛岡市生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科修士課程藝術学専攻修了(美学)。フランス国立社会科学高等研究院博士課程言語学専攻修了。博士(言語学)。二十代半ばに渡欧。パリでは言語学を学び、制作と学問の双方から言葉/文字を記す行為に向かいあった。2006年帰国。11年岩手県美術選奨受賞。近年の個展は11年盛久ギャラリー(盛岡)、新潟絵屋、北書店画廊、12年Cyg art gallery「書書葉葉」(盛岡)、13年OGU MAG「佐佐木實の書 -型ハメ 型モレ-」(東京)、14年新潟絵屋など。14年Gallery 彩園子(盛岡)での「明日の仕事、12人」のひとりに選ばれ『ヒ象る』で参加。

佐佐木實
PHOTO:「イ」2015年 鉛筆・インク/紙 29.7 x 21.0 cm

■作家在廊予定日:4月22日~24・29・30日
※24日17時迄、29日午後~

小木曽瑞枝展「前上下左右後」

4月12日sun―20日mon

vol.458

 銀行で、喫茶店で、パン屋さんで、あの作家のあの作品が合いそうだ、などと想像する癖がある。必需品ではないけれども、あったら格段にいい。そんなささやかな仕掛けが、いろんなものを鼓舞する。
小木曽さんは、パブリックアートを多数手掛けてきた。ユーモラスで明るい色調の作品は、どこかのんびりとした佇まいがあり、安らぐ。空間は活気づき、周辺とも調和する。新潟にもあったら、と空想した。
 近作は糸ノコギリで板を裁断し、彩色して制作される。今回は後ろからの視点を加えた新作を交えて構成することにした。シリーズ「クリプトクロム」は、青色光受容体タンパク質が語意で、ギリシャ語で「隠れた色素」という意味がある。”可視化する事は出来ないが、確実にそこに存在している”そんな意味合いだという。白い壁に掛けると、側面の色は反射し、ほのかに壁を染める。
 作家がキーワードとしている言葉「日々観光」は、”日々観る事(風景の観察)に光をあてる”という意味。新潟絵屋の空間で、面白がり上手な美術家はどんな風に遊ぶのか、待ち時間がたのしくてたまらない。(井上美雪)(企画 井上美雪・大倉 宏)

PROFILE
小木曽瑞枝(おぎそ みずえ) 1971年東京都生まれ。日本大学芸術学部美術学科卒業。96年東京芸術大学大学院美術研究科修了。2007年ポーラ美術振興財団在外研修員としてスウェーデンに滞在。風景の観察を通じ、独自の視点で物語性を構築し、ファンタジーとリアリティーの狭間にあるような世界観を平面や立体、インスタレーションなどの作品として発表。近年の主な個展に、UTRECHT/NOW IDeA「The garden of deep sea」、IDEE自由が丘店「日々観光」、TRAUMARIS/SPACE「花蜜標識/ネクターガイド」(東京)、「左見右見」(横浜・東京)、Circle gallery「Chryptochrome」(東京)など。12年府中市美術館「OVER THE RAINBOW 虹の彼方」出品など。パブリックアート多数。

PHOTO:「2010年『森へはいる』「Beginning!Beginning!展」(Sunday issue/東京)にて

石井一男展

4月2日thu―10日fri

vol.457

 石井一男さんの出品作の画像が、ギャラリー島田から送られてきた。
 3つは石井さんのあの「女神」の絵だったが、もう1点「ひとり」と題された違う絵があった。白く四周を縁取られた画面に暗い海面らしきものが覗き、波がひとつ、尖った峰をつくっている。その上方、しぶきが霧になったのか、白いものが流れる中空を小さい鳥のような人が飛んでいる。
 新潟絵屋での前回の個展は12年前。その時は旗野秀人さんの企画で、私は少し話しただけだったけれど、石井さんのお人柄ならぬ、お「ひとり」柄が印象に残った。49歳まで未発表だった画家石井一男の抱え続けたひとりは、島田誠という他者の力で開かれた。開かれても、なお変わらぬひとりがここにいるとそのとき感じた。それから12年、その後の石井さんの絵も、人も見ぬままに、島田さんの依頼を受けて久々の個展を開くことになった。
 絵を見ると、やはり、石井さんは変わっていないと感じる。変わらないこと、変われないことの辛さをかみしめながら、生きている。(企画 大倉 宏)

PROFILE
石井一男(いしい かずお) 1943年神戸市生まれ。画家。92年より海文堂ギャラリー、2003年よりギャラリー島田にて毎年個展を開催。そのほか天音堂ギャラリー(大阪)、ギャラリー愚怜(東京)、松明堂ギャラリー(東京)、ギャラリー枝香庵(東京)、ギャラリー風(福岡)、亀の井別荘・談話室(大分)、新潟絵屋(新潟)などで個展開催。11年BBプラザ美術館(神戸)にて企画展「無垢の画家 石井一男」、12年佐喜眞美術館(沖縄)にて「奇蹟の画家 石井一男展」が開催される。画集に『絵の家』、『絵の家のほとりから』、『女神』がある。後藤正治氏による書き下ろしノンフィクション『奇跡の画家』(講談社)やテレビ番組「情熱大陸」(TBS)などでも紹介された。

PHOTO:「ひとり」2014年 油彩/キャンバス SM

■作家在廊予定日: 4月2・3・4日