田中正弘 展

5月12日fri―20日sat

vol.525 作家在廊予定日:会期中毎日

 アイヌの世界では自然や動物だけでなく、道具にもカムイ(神)が宿り、不要になると、道具のカムイに供え物をし、感謝を告げてカムイの世界に送り返すのだという。
 歯のこぼれた斧や、蚤の市で求めた古物で構成した田中正弘の作品に感じるのは、どこか飄々とした読経の声だ。知人の死をきっかけに制作された20年前の「立棺」シリーズから、原爆の記憶をこめた「雲水」、黒い標本箱風の「植物誌」「昆虫記」へ続き、今日につながる制作を想起すると、どれにも人や植物や昆虫や道具に手向ける、制作者の一貫した祈りがこめられていたことに気づく。仏教の僧は日本では、いつからか死者の供養を担う存在になった。「供養」を「カムイへの感謝」に重ねると、これらの作品たちはそのような供養=感謝を、生きたものに、使われたものらに向けて捧げ続ける僧たちに見えてくる。
(企画 大倉 宏)

田中正弘(たなか まさひろ)
1946年新潟市生まれ。76年初個展以降、東京銀座を中心に個展グループ展多数。90年「四季の径・彫刻大賞展」大賞受賞(古河市)。91年寄居浜(新潟市中央区)に 「夕日モニュメント」を製作。2003・06・09年新潟絵屋で個展。13年~「どこかでお会いしましたね」展(さいたま市)毎年出品。

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田中正弘展

PHOTO(上): 「斧斤・伝」
PHOTO(下): 「新・風土記」2015年 40.0×30.0cm

小林寿一郎「佐渡の芸能」木版画展

5月22日mon―30日tue

vol.526 作家在廊予定日:5/27・28

 小林さんの木版画には作風にふたつの面があると思う。一方に深い精神性を備えた作品があり、一方で遊び心を発揮したユーモラスな表現があって主題により彫り分けられている。技法にも木口、板目、両版併用があり、多様な顔料を駆使した色彩、マチエールも多彩だ。作域も広く、だから見ていて飽きることがない。4年前新潟市の蔵織で彼の作品をまとめて観る機会があった時の感想だ。
 今回の個展は広い作域の中から小林さんが長年手がけているどちらかというとユーモラスな作品が多い「佐渡の芸能」をテーマでお願いした。鬼太鼓、薪能、子供歌舞伎、花笠踊り、のろま人形に文弥人形の頭、車田植、そして宿根木の屋並など。小林さんのふるさとに寄せるおおらかな眼を感じながら、ユーモアをたたえた木版画で佐渡の芸能の素晴らしさを楽しんでほしい。絵屋では14年ぶりの個展。(企画 小見秀男)

小林寿一郎(こばやし じゅいちろう)
1954年佐渡市生まれ。70年万国博覧会世界児童画展特選受賞。82年より高橋信一(佐渡版画村美術館創立者)に師事し、86年から版画家日和崎尊夫に木口木版の指導を受ける。91年ニューヨークに滞在して現代美術を学ぶ。95年第50回県展県展賞受賞、無鑑査となる。96年「現代版画の状況展」(福島、新潟)、04、05年個展「佐渡の芸能版画展」(ネスパス、佐渡博物館)、06年「新潟の作家100人」(新潟県立万代島美術館)出品。2000・03年新潟絵屋、13年蔵織で個展。現在佐渡版画村会員、佐渡狭門会会員、新潟県展委員。

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小林寿一郎「下久知八幡祭り」

PHOTO(上): 「佐渡文弥」2017年 木口木版画
PHOTO(下): 「下久知八幡祭り」2017年 木口木版 15.3×10.4㎝

斉藤文夫 写真展 『海の村 山の村』

5月2日tue―10日wed

vol.524 作家在廊予定日:5/3・5・8
※在廊予定日を、当初、5/3・5・7・10とお知らせしておりましたが、諸事情により変更となりました。
何卒ご了承ください。

 半世紀余り、去り行く「郷土」を撮り続けた斉藤文夫氏。
 斉藤氏は荒波や豪雪の中で生活する人々の中に入り込み、土地の生活、習俗、様々な道具を記録に残した。厳しい自然と対峙しながらも、どこか可笑しみを含んだ写真もあり、見ている側が様々な感情に包まれる。そこには営々と受け継がれて来た人々の海や山との関わり、それらと混然一体となった人同士の交わりが刻まれている。
  氏がフィルムに収めたものは、時が経つにつれ、現在との「差異」をより明瞭に浮き彫りにする。それは被写体が失われて戻らないからこそ、より深く見るものに変化と喪失を訴えかけ、私たちに現在への眼差しを問う。
  撮影から数十年、すでに埋められぬものとなった差異は、それが一体何であったのかと今静かに私たちに問い続ける。
(Bricole 桾沢和典・桾沢厚子)

斉藤文夫(さいとう ふみお)
1933年新潟市西蒲区(旧巻町)福井生まれ。写真家、郷土研究家。NPO法人福井旧庄屋佐藤家保存会理事。元巻郷土資料館長の石山与五栄門氏や写真家・熊谷元一氏との出会いによって、郷土の風景、暮らし、人々の営みなどドキュメント志向の写真を撮り続ける。地域資源の発掘や文化・研究活動の傍ら、『角海浜物語ー消えた村の記録ー』『蒲原 昭和の記録ーカメラが捉えた昭和の残像ー』写真集も出版。1998年より旧庄屋佐藤家の保存活用を始め、現在も囲炉裏の火を守り続ける。

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◆斉藤文夫写真展『海の村・山の村』ギャラリートーク
2017年5月3日(水・祝)14:00~15:00
会場 :新潟絵屋 展示室
ゲスト:斉藤文夫×桾沢厚子(ブリコール)
司会 :大倉宏
参加料:500円 ※満席となりました
お問い合わせ先:新潟絵屋 info@niigata-eya.jp

斉藤文夫 「山村の春」

PHOTO(上): 「海に生きてきた漁師(昭和46年、浦浜)」
PHOTO(下): 「山村の春(昭和49年 下田村大江)」

■斉藤文夫写真集『昭和の記憶 新潟 海の村 山の村』刊行のお知らせと製作資金ご支援のお願い
http://bricole.jp/donate