華雪展 「文学」

PHOTO: 「花」 2018年 (岑参『山房春事』より)

9/1[土]―11[火]

新潟絵屋 企画展 vol.560

 文学は、美術と同じように、明治に作られたか、当てられた翻訳語だと思うが、美術がやがて自画像の流行から、自己や真実、リアリティを探し、写す道具や、鏡になっていったように、文学もそうなった。書は、そのような文学と美術の合流点であって、分岐点でもある。と、いうことに、近代の文学のコトバを書く華雪の書を見て、はっと気づいた。何を探し、それは映しているのか。あるいは何から、離れていくのか。
 山之口貘「ねずみ」。その、一枚の「ねずみ」を、華雪はJR佐々木駅から二宮家の米蔵に向かう途中の小さい橋から実際に見た、という。そのことが、一枚の書としてある。ここに。(企画 大倉 宏)

華雪(かせつ)
1975年京都府生まれ。立命館大学文学部哲学科心理学専攻修了、東京都在住。幼い頃に漢文学者・白川静の漢字字典に触れたことで漢字のなりたちや意味に興味を持ち、以来、文字の表現の可能性を探求することを主題に、国内外で展示やワークショップを行っている。刊行物に『石の遊び』(平凡社、2003)、『書の棲処』(赤々舎、2006)、『ATO 跡』(between the books、2009)など。作家活動の他に、『コレクション 戦争×文学』(集英社)など書籍の題字なども手がける。

kasetsuws.exblog.jp
facebook

華雪 ねずみ

生死の生をほっぽり出して
ねずみが一匹浮彫みたいに
往来のまんなかにもりあがっていた
まもなくねずみはひらたくなった
いろんな
車輪が
すべって来ては
あいろんみたいにねずみをのした
ねずみはだんだんひらくたくなった
ひらたくなるにしたがって
ねずみは
ねずみ一匹の
ねずみでもなければ一匹でもなくなって
その死の影すら消え果てた
ある日 往来に出てみると
ひらたい物が一枚
陽にたたかれて反っていた

山之口貘「ねずみ」より
PHOTO:「ねずみ」 2013年 (山之口貘『鮪に鰯』より)

華雪「家」

PHOTO: 「家」2017年(長谷川四郎『老家抄』より)


関連イベント

ギャラリートーク

9/7[金]19:00―20:30 (参加料:1,000円)
聞き手:桾沢和典(Bricole) 会場:新潟絵屋
華雪展「文学」の作品には、さまざまな詩や小説などの引用があります。幅広い分野の本を読んで来られた桾沢和典さんを聞き手に迎え、華雪さんのお話を伺い、作品に歩み寄ってみるひとときです。事前申込は不要です。お気軽にご参加ください。


関連企画

華雪公開制作と「場について」トークイベント

9/1[土]
16:30―17:30 ◆公開制作 (参加料:1,500円・コーヒー付)
19:00―20:30 ◆トークイベント「場について」(参加料:2,000円・コーヒー付)

(ゲスト:華雪/ナビゲーター:阿部ふく子)
阿部 ふく子:新潟大学人文学部准教授。専門は近代ドイツ哲学、哲学教育。哲学プラクティスの活動に関心があり、地域のさまざまな人々や小学校と連携して哲学対話を推進している。
公開制作+トーク◆通し参加料:3,000円・コーヒー付

会場:ツバメコーヒー(燕市吉田2760-1 tel.0256-77-8781 tsubamecoffee.com
主催:つばめの学校+新潟絵屋
「つばめの学校」は、燕市の若者が運営する「つばめ若者会議」のプロジェクトのひとつです。自ら学ぶと共に「学びの場」を提供し、講師・メンバー・参加者のみんなで一緒に「学び」を体験し、交流を深めるため、さまざまなイベントを企画しています。

写真が写実的絵画の意味を変え、電子メールが手紙の意味を変え、 iPhoneが腕時計の意味を変えたように、オンラインショップがお店の意味を変えようとしています。現代において、わざわざ足を運ぶことでしか得られないもの、見ることができないものとは何なのでしょう?カフェもギャラリーも、商品を買うための場でありながら、そこで過ごすための 「場」としても機能しています。店主と話すために、集う友と語らうために、あるいはそこにある作品と対話するために、またあるいは予期せぬ何かと巡り会うために、場に赴くとしたときに、 これからの「場」とはどうあるべきでしょうか?書が生まれる光景は、その場の空気を変えてしまうでしょうし、その書が飾られた空間もまた、なにかを変えてしまうものです。
今回は華雪さんによって書が生まれる場に立ち会うことによって、私たちにとって必要な(ありうべき)「場」とはどうありうるのか?について、体験を通じて探っていこうとする試みです。ご都合がつけば、公開制作とトークイベントを合わせてご参加いただくことをおすすめいたします。

華雪

PHOTO: 花坊


巡回展 ~ほんといっしょにたのしめる~

9/13[木]―30[日]華雪展 「文学」 ◆ 巡回展
会場:北書店(新潟市中央区医学町通2番町10-1-101 tel.025-201-7466)
営業:10:00~20:00 (土日祝 12:00~20:00)
定休日:第1・第3日曜日
書店を会場とした巡回展では、作品と連動する書籍とともに展示を行います。書籍からどのような共鳴を持って作品がうまれたのか、ぜひじっくりとご鑑賞ください。書籍は購入も可能です。

華雪篆刻感時花涙

篆刻「感時花濺涙」2018年 12.0×12.0cm(edition30)

時世の悲しみを感じては、花を見ても涙がこぼれおち
(杜甫『春望』より)

後藤裕子展 

PHOTO:「綿雲」2018年 20.0×48.3cm

9/17[月・祝]―30[日]
9/21[金]18:30―ギャラリートーク
(トーク開催日は、21:00まで夜間営業)

新潟絵屋 企画展 vol.561

 今年3月、ギャラリーみつけでの後藤裕子展に私は感動した。そこには新潟・中越の自然を、鏡のように映しながら、その自然が、個人という、屈曲する川を下って、矩形に構成される絵という名の海へ注ぐ——そのプロセスが、ドラマが、キラキラした、透明な美しい色彩の結晶になって並んでいた。
 鏡のように、と書いたのは、山や空や風や光の繊細な表情が、草の葉のような筆先のこまやかな仕草に、あざやかに映しとられていたからだ。若いころ、パリのボザールで絵をコンポジション(構成)する面白さを学んだ彼女が、山と海と平野が隣接する長岡に暮らして20数年。
 この人生と、この場所が、時の濾過をへて、化学反応を生じて現れた、素晴らしいヴィジョン(視覚)の世界を紹介したい。(企画 大倉 宏)

後藤裕子(ごとう ひろこ)
1951年東京都生まれ。父に画集を祖母に油絵具箱を贈られる環境で育つ。美大を経て油彩画を組成と技法から学び直そうと仏留学し、帰国後は子育てや介護等家庭の中で過ごす。夫の赴任地新潟県長岡市で病院や施設に風景画を飾る機会があり、スケッチと構成画制作を始めた。

関連イベント
ギャラリートーク 9/21[金]18:30―(1時間予定)

後藤裕子
聞き手:大倉宏
500円/予約不要。お気軽にご来場ください。

後藤裕子「養鯉池」

PHOTO:「養鯉池」2018年 30.0×18.6cm

後藤裕子「信濃川蛇行」

PHOTO:「信濃川蛇行」 2018年 29.6×29.8cm

後藤裕子展