北書店

新潟市役所前にある町の本屋さんで展覧会の企画をしています。

北書店 (きたしょてん)
新潟市中央区医学町通2番町10-1-101
tel.025-201-7466 9:45〜20:00 定休日:第1、第3日曜日
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佐佐木實「Freedom」

2011年11月2日(水)〜30日(水)

佐佐木實展

 
佐佐木實(ささき みのる)
■ 1969年岩手県盛岡市に生まれる。6歳より書を学ぶ。96年東京芸術大学大学院美術研究科修士課程芸術学専攻修了(美学)2006年フランス国立社会科学高等研究院博士課程言語学専攻修了。博士(言語学)。芸大修士課程在学中に富山県立山博物館の天界窟を制作し書家としてデビュー。96年伝統や因習から一歩距離を置いた視点で書を見つめ直す為渡欧。97年村松画廊(銀座)、01年Comptoir des Ecritures(パリ)個展。06年帰国。09年、11年盛久ギャラリー(盛岡)で個展。11年4月新潟絵屋で個展、同年4〜5月砂丘館で特別展示開催。東京都在住。

 
←「Freedom」2010年 72.5 x 54.3cm
鉛筆 色鉛筆 シャープペンシル 
色シャープペンシル ペン グラファイト ソフトパステル ハードパステル オイルパステル インク / 紙

 はじめて佐佐木さんとお会いしたとき、たちまちファンになった。内面から醸し出すものに直感的に反応せずにはいられなかった。
 次に、和紙の名刺を差し出された。手書きではない、フォントで作られたものだった。
 片面はお名前のみ。姓名を漢字で表記し、分解してあった。文字は、通常見かけるような並びではない。「佐佐木」と「實」は、文字がばらばらになって紙の上で闊歩している。下の方にはローマ字表記のお名前の音の連なりが。文字の音は視覚的に音を感じさせた。
 反対面は、「書」と大きく、「言語学博士」と書の文字よりは小さめに黒字で刻されていた。端の方には黄色で、見えないひとには見えないだろう大きさで「書の制作」「研究」とあった。文字たちは名刺の機能を果たしながら、佐佐木さんの広場で気ままに上品に息づいていた。
 それから、作品を見せていただいてすっかり魅了されたのである。もちろん手書きだ。独自の手法を駆使し、書き、描かれて文字は一層いきいきと輝いていた。抜群の言葉のセンスが潜んでいる。想像できなかった書の世界があった。 (井上美雪)
 

佐佐木實「Freedom」


「Freedom」部分
   
私は言葉を書いています。
つまり文字を書いています。言葉を書いているという点をもって、私の作品を「書」と呼んでいます。

原則的に、一作品毎に一つの言葉を書いています。
その言葉は同一紙面上で何度も繰り返し書かれています。書かれている言葉はそのまま作品のタイトルになっています。(例外もあります)。タイトルを手掛かりに、あるいはタイトルを見ずに自力で、書かれた言葉を探してみてください。
     佐佐木 實

*今回は、佐佐木さんに本にまつわるいくつかの質問をしました。

佐佐木實さんへの質問
こどものころに大好きだった本は何ですか?
  『香水のはなし』堅田道久・西尾忠久編  東京アド・バンク 1979年
9歳の頃、街の図書館から借りて読んだ本。フランスの香水文化を写真を多用して紹介していた。私はジャン・パトゥという銘柄のJoyや1000という香水瓶を憧れをもって眺め、その香りを想像して「大人になったら必ず買うんだ」と心に決めていた。
19歳になって初めてこれらの香りを嗅いだとき、典雅な貴婦人の香りがして、圧倒された。
影響を受けた本は何ですか?
  『声の文化と文字の文化』ウォルター J.オング 桜井直文ほか訳 藤原書店 1991年
(Walter J.Ong, Orality and Literacy, The Technologizing of the Word, Methuen, 1982)
私が藝大の大学院に入った頃に読んだ本。人間の言語活動について、特に話す行為と書く行為のそれぞれの特質について広く、横断的に検証している。この本を読む以前から、言葉や文字というものについて考えていたが、この本を読んで一気に視野が広まり、多くの課題が目の前に見えた。私は私が制作する作品を「書」と呼んでいるが、実は「言語活動」そのものが制作の主題となっていて、それにはこの時期にオングやその他多くの言語に関わる著作から触発されたことが大きく影響していると思う。石川九楊、バルト、ドゥルーズ、デリダ、マクルーハンなども勿論読んでいたけれども、オングは示唆に富んでいて、多くの啓示を与えてくれた。
最近読んだ本は何ですか?
  ごく最近読んだものはといえば、料理の盛付けに関する本を何冊かまとめて読んだ(今回の展覧会では「食」に関する言葉を書いた作品も展示しているのでどうぞ御覧ください)。これから読もうとしているのは、小林秀雄。
最近3年間で一番印象的だった本は?
  『闘う白鳥』マイヤ・プリセツカヤ 山下健二訳 文藝春秋 1996年
旧ソビエトを代表するバレリーナの自伝。彼女が「体制」側から絶え間なく突きつけられてきた理不尽な要求が細やかに描写され、また彼女の私的な感情も赤裸々に綴られている。20年程前彼女が『カルメン組曲』を踊るのを見て感激して以来私は彼女が大好きであったので、内部事情を美化せず、時に暴力的に告白する彼女の文調には抵抗を覚えることもあったが、そこには本当の、偉大な芸術家の姿があったと思う。誰かに「何か本を推薦してください」と問われたら、この本をすすめると思う。
好きな作家やジャンルについて
  上に挙げた本の中に物語が入っていないので、私自身が個人的に共感を覚え感情移入できるような物語を数点挙げてみたい。それは、谷崎潤一郎の『細雪』や太宰治の『斜陽』。他にはオスカー・ワイルドの『サロメ』。三冊とも十代の終わり頃読んだ。サロメは肉欲の化身のように解釈されることが多いと思うが、私にとってサロメというのは観念的で自己陶酔的な恋をしていて、奔放というよりも、否定され抑圧された結果、内にうごめくエネルギーを熱狂的に外に迸らせる、繊細で禁欲的、自傷的な女性であるように思われた。読んだ当時、まるで自分そのものと思った。ビアズレーの挿絵も大好きだった。これとは反対に、夏目漱石の『三四郎』には全く共感できず、一体どこがいいんだろうとさえ思った(漱石では『それから』のほうがずっと面白いと思った)。