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2010年11月10日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

光沢の魅力伝わる漆黒世界

小磯稔うるし絵展
(2010年11月12日〜20日 新潟絵屋


小見秀男(新発田市教育部生涯学習課学芸員)
小磯稔「カタクリ」

「カタクリ」

 
 「漆絵の黒の光沢はほかの絵具には出せない。絵具には出せない光沢が漆の魅力。もっと身近に置いて楽しんで欲しい」と小磯さんは言う。
 ただ、この漆の魅力を最大引き出す限に引き出すには数え切れないいくつもの行程と自然を相手にした忍耐のいる長い時間が必要になる。いわば、漆絵は究極のスローライフペインティングなのだ。
 小磯さんは長らく新潟大学の美術科で工芸の歴史と実技、特に漆芸を専門に教えてきた人だ。退官後は研究者から漆の職人になって、理論を実践に移す立場になった。理論派らしく、小磯さんは漆の深く、艶やかな光沢を得るために素材である木地から30数種類にものぼる「きゅう漆工程」を根気よくたどって手を抜くことがない。「塗り」と「研ぎ」を気の遠くなるほど繰り返すのだ。
 一つの作品を仕上げるには最低でも、1年はかかると言う。
 こうして、漆と時間を塗り込めて完成した小磯さんの作品には例えようもない、深々とした何とも美しい漆黒の世界が生まれていて吸い込まれるよう。漆の光沢の魅力が十分に伝わってくる。
 今回の個展では漆の色の特質が一番に発揮されるという黒、緑、朱の彩漆を使用して、花々をモチーフにした、漆絵とガラス絵が出品される。
 自然をデッサンした時の小磯さんの感動を伝えているようで、とても鮮やかでいて艶やかな作品の数々だ。
 ところで、今の私たちの日常生活から遠ざかってしまったようにもみえる漆工芸だが、その奥深い魅力を再発見する、格好の展覧会になると思う。それが小磯さんの願いでもある。

■作品の塗装工程
展示作品の漆絵の板及びキャプションに本堅地
(ほんかたじ)と表示してある器等の塗装工程は、本堅地呂色(ろいろ)仕上という伝統的な技法で、37工程を1年以上かけて塗装しています。漆絵はその塗面に金平蒔絵の技法をまじえながら、顔料と漆を2時間かけて練り合わせた彩漆(いろうるし)を用いて描画しています。漆絵はタッチをそのまま残すために、研出(とぎだし)法などは使わず、描き放しの状態で仕上げています。