News Paper
2005年5月3日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

愛と憎しみ… 人間の業を表現

篠原乃り子展「Sep.11thをこえて…」
(2005年5月2日〜10日 新潟絵屋)


敷村良子(作家)
「Here is still」
2002年 International Prints Center N.Y.のコンペテション入選作品
銅版画 43×39cm


 NYのアトリエで、篠原乃り子の作品と向きあったとき、作品から発する熱で焼かれそうになった。自己表現のマグマが作品にたぎっていた。
 篠原乃り子が描くのは、愛のしわざ。男と女、人間と人間のディープな関係。それは彼女の人生そのものだ。
 ギリシャ神話からタンゴまで、さまざまなモチーフに託された、人に愛する心があるがゆえの執着、嫉妬、暴力、快楽、充足、平穏、平和。それらが繊細かつおおらかで大胆な線で結晶する。
 愛は地球を救う。しかし愛と憎しみは一体で、暴力となって人を殺す。彼女の作品を窓とし、私は人間の業の深みをのぞきこむ。
 篠原乃り子は、アートを勉強すべく、生まれ故郷の富山県高岡市を出て単身渡米した。ほどなく国内外で評価の高い前衛芸術の暴れん坊、篠原有司男と出会い、結ばれ、やがて出産。芸術いちばん、お金がなくてもなんとかなるさという無邪気な有司男とお腹をすかせて泣くひとり息子。創作に全身全霊をささげられない不完全燃焼の20数年があった。
 現実生活と自己実現の両立のジレンマ。同じ表現者としての夫とのせめぎあい。それらがいかに苦しかったか、篠原乃り子はキャレル5月号のインタビューで語っている。エッチングと出会い、彼女は開放された。長い葛藤の時代は有益な熟成期間だったのかもしれない。
 新潟絵屋と篠原乃り子の出会い。その現場に立ち会える人は幸せである。今回はエッチングを中心に立体も公開される。