News Paper
2005年5月31日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

嵐の中から天空へ、また嵐へ

藤田陽子 陶展「雲は行く」
(2005年6月2日〜10日 新潟絵屋)


坂爪勝幸(陶芸作家)
「三日月の夜に雨が降る」


 藤田陽子は、轆轤で作品を作ることを少し控えめにしていつからだったろうか? 白い雲の中に足を踏み入れて陶土で雲の作品を作り始めました。雲の下は、雨だったり、雪、霰だったり、風が吹いていたり、雷まで鳴っています。不思議なことに雲の上は、茫漠と淡い空が無限に広がり、日の光に溢れ、風が、そよぎ大きな神木が、一本すくっと立って大抵、一、二軒の小さな家が、あって、夜になると星が、輝いて月が、雲の上にポコっと乗っかっていたりしています。
 でも雲の下は、相変わらずの雨や嵐なのです。いつも寡黙でどこか困惑した表情を浮かべて作品を制作している藤田は、きっと雲の下で土砂降りの雨の中にずぶぬれになって困ってるか、真っ白な雲の中に迷い込んで変化自在に変わる雲の形を整えるのに空を駆け回ってるか、のどちらかに違いありません。
 藤田は、一生懸命に雲の上の家に辿り着くために、はしごや階段を捜して右往左往してやっとの思いでみつけて雲の上に辿り着くのです。藤田の天空が、雲の上にあって、まだ住人の決まってない控えめな小さな家、織部釉の葉っぱが、茂ってる神木、ようやく見るとこの神木に時折、可愛らしいちっちゃな小鳥が、枝にとまったり、屋根のてっぺんに止まったりして天空の世界に住む住人を待っているのです。藤田が、少しだけ天空で心を休めて、一人で天空で時を過ごした後、しばらくするとまた例の階段とはしごを伝って、嵐の中に戻って行くのです。