News Paper
2005年6月24日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

失った日本人の心思い出す

森本秀樹展
(2005年7月2日〜10日 新潟絵屋)


山下透(アートNPO推進ネットワーク)
「操車場」 油彩 S6

 森本秀樹の描く宇和島の風景はどれも心に残る。町並みのくすんだ白壁や波止場の釣り人、操車場跡の静寂などが抑えた色調で描かれ、何か懐かしいものに出合ったときのようなしみじみした気持にさせられる。物質的な豊かさとの引き換えに日本人が失い、忘れかけている何かを思い出させてくれるかのようだ。
 描かれているのは作家の記憶のなかにある少年時代の故郷の風景である。そこにあるのは宇和島の風景でありながら、見る人それぞれの心の奥底にある過ぎ去りし日の故郷の風景そのものに見えてくる。作家が描こうとしているのは日本人の心に違いない。
 宇和島は四国の瀬戸内海沿いを走る予讃線の終着駅である。江戸幕末期より小藩でありながら幕府や他藩の影響を受けることなく早くから西洋の学問技術を取り入れたり、大村益次郎を招き日本で始めて蒸気船を作るなど独自の文化を築き上げた。司馬遼太郎が「花神」のなかで宇和島の人のことを〈人前に張り出して自分を誇示することをせず、それがために天下に知られず終わっている人が多い〉と書いているが、作家森本秀樹もまさにそんな人柄である。
 東京に拠点を置くアートNPO推進ネットワークと大倉宏氏らの新潟絵屋とのコラボレーション展覧会も第3回となった。最近美術市場において投資目的の資産家が姿を消し市民派コレクターがクローズアップされつつあるが、アート市民の層が厚くなりつつあるのだと思う。既に地域市民と密着した活動を続ける新潟絵屋には学ぶべきこと多く、今後とも鑑賞者の視点に立った質の高い展覧会などコラボレーションしていきたいと考えている。