News Paper
2008年10月21日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

命満ちる清らかな女性像

伊津野雄二 彫刻展
(2008年10月22日〜30日 新潟絵屋)


大倉宏(美術評論家)
「West Gate」 2008年 はこやなぎ
17×16×h30cm


 美しい顔、体。
 昨秋、愛知県岡崎市に住む彫刻家伊津野雄二を訪ねその女性像の清純さ、たおやかさに打たれた。木やテラコッタの肌に生命の水が内からひたひたと満ちてくる。その清らかな音が見る者の目を吸い寄せる。
 清らかさの中に色がある。色とは体の芯を波立たせる気配だ。美しさと官能がひとつ幹を流れ、枝分かれする寸前の微妙な地点へやわらかく引き込む力と言ったらいいだろうか。愛らしい子供も、成熟した女性も、海の女神のような裸像も、見ていると肌にふれ、愛撫し、目をなぜかつぶりたくなる。
 新潟での初めての個展には、新潟絵屋という会場のため新たに制作された小品が並ぶ。「西の門」「東の門」と名付けられた二つの頭像。風を人の姿に刻んだ二つの木彫像「砂丘を歩く」「潮を駆ける」。そこから見下ろされるように身を寄せた街。小さいインスタレーションのように構成される空間は、岡崎の山里から思いははせて夢想された北の港町、新潟のイメージだと気付く。
 壁に広げられる美しいイメージスケッチの、明るいグレーを溶かした青は、私たちの見慣れた空の色だ。風が砂を運び、無窮の天に波音がこだまし、浜辺の野草のささやきが聞こえる。画家の深い夢想の地に芽を出した美しい自然の街は「はるか」でありながら、けれど「ここ」である不思議の光で、見つめる私の心をやわらかく揺らす。