News Paper
2009年6月22日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

不思議な線は人の声のよう

ひと 緑川俊一展
(2009年6月22日〜30日 新潟絵屋)


河田拓
「人」 2008年 木炭、紙 36.3×25.7cm


 緑川俊一の線は不思議な線だ。それは何かを描写する画家の線でも、字を書く書家の線でもなく、それ自身の内部から突き上げる力で進み、曲がり、進む。初めて歩く子が歩くことの力、衝動だけで歩いていくみたいに。
 以前のシリーズではその線が「顔」になった。それはだから、描かれた顔ではなく、現れた顔であり、地上に突き上げた溶岩に開く目や鼻や口に人がぎくっとするように、緑川の絵は見る者をいつも新鮮に驚かせた。
 8年ぶりに新潟で開かれる今回の個展では、近年の「人」シリーズが並ぶ。野太いテナーサックスの音を思わせた「顔」の線に比べると、「人」の線はもっとかすれた、そう、人の声のようだ。顔の線みたいに画面からはみだす強さを持たず、ひと、ひと、とささやくように歌われるスキャットの声。その声に誘われるように線から人が現れる。それは描かれた、衝動的な人ではなく、ただそこに「在る」人のようだ。
 一人一人違う人のなかにいる、石のように沈黙し、無表情にそこにいる、人。薄皮を次々むいていった果てに、もはやむけないものとして立っている、人。
 そいつがぼくの中の無言の人を、じっと視線を向けず、見詰めているのだ。。