News Paper
2009年11月2日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

独特の観察眼を刺繍で表現

長尾玲子展 私的花言葉
(2009年11月2日〜10日 新潟絵屋)


井上美雪(新潟絵屋運営委員)
ユーカリとアカシアとササ
「動物園」
2007年 16.4×13.0cm


 「12ヶ月のサンプラー」と題された昨年の個展では、「社食」「サンタクロース」「着せ替え人形」などさまざまなテーマによる12カ月が1枚の絵に刺されていた。独特の観察眼を映し出す絵は、こまやかな刺繍との相性が抜群にいい。
 さて、今回の個展のテーマは「私的花言葉」。
 花言葉は国や地域、民族、宗教によって大きな違いがあり、世界各国に異なった花言葉が存在しているそうだ。暦を誕生花で表し、言葉に結び合わせたりもする。植物にどんな象徴的な意味を持たせるか。それを私的感覚で自由に想像して描いたのが、今回の作品展である。
 例えば、コスモスの茎をコンベヤーのベルトに、花びらをその下で回転するタイヤに見立ててのぬいぐるみ工場は、大量生産で機械的にものが作られる冷たいイメージを転換し、愉快で夢のある絵に仕立てられている。
 今回はこの花言葉シリーズ59点が一堂に展示される。顔を近づけると目に映る糸のぽっこり感は、気の遠くなるほどの時間の厚みを語り、同時に静かに針を運ぶ作者の幸福な時間を思わせる。そして、花や豆粒ほどの人や動物は、細部まで均等に作者の愛情が注がれ、見ていていると、ただただ満たされた心境になる。毛布に包まれたような温かな心地のするこの展覧会で、自分の花言葉を考えるのも楽しいかもしれない。