News Paper
2010年4月10日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

「散歩道を」たどるような世界

森 敬子 展
(2010年4月12日〜20日 新潟絵屋)


井上美雪(新潟絵屋運営委員)
「畑の道」2010年
 油彩/キャンバス F8


 春も浅いころ、森さんを訪ねた。千葉県市川市のアトリエで近作を並べ森さんは言った。
 「いつも散歩道から描き始めます」
 展覧会前に集中的に描く。普段の暮らしから絵を描く人のモードへ切り替わる境目に「散歩道」の絵があるそうだ。
 森さんの展覧会は、新潟で過去に2度あった。確かに散歩道や散歩をしている人の絵があった。それらが、自身の世界に深く分け入る作者の入り口であったことが興味深く、そこに、見る側の私自身も重なった。絵を見る人のモードに切り替わる境目があることに気が付いた。
 私の場合、森さんの絵を見ると、言い知れないおかしさに誘われる。道の絵ならば道筋が1、2本、ただある。それか、そこに、宙に浮くきのこがあったり、妙に巨大な鳥がいたりする。みな唐突だ。唐突さは、衝撃や刺激に終わることも多いだろう。強いほどくらくらして分からなくなる。けれど森さんの絵は、唐突を入り口とした、もっと深いものに感じられるところがいい。深いからこそ、絵を見つめる自分自身の深さを発見することができる。絵を見るモードに切り替わる境目に立つことができる。
 アトリエでは、散歩道の絵を入り口に、ずんずん突き進んだ森さんの道筋に出合った。あれからさらに歩いたことだろう。現実でも春を歩いた森さんの、散歩道をたどるような展覧会になるだろう。