News Paper
2010年4月16日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

魂の深部に届く不思議な力

アンティエ・グメルス ― 光の旅
(2010年4月17日〜5月2日 柏崎市新橋の游文舎)


大倉宏(美術評論家)
transpa rent Self Portrait with Double Face(2010)


 5年前からはじまったアンティエ・グメルスの「光シリーズ」を、一堂に紹介する展覧会が開かれる。昨年の新潟市の個展でまばゆく、深く、揺れる「内なる光」に動かされた人、あるいは「大地の芸術祭」のブナ林に無数の目を浮かべた衝撃的なインスタレーションを記憶に刻んだ人も多いのでは。
 近年の彼女の制作は魂の深部に直接語りかける、不思議な力に満ちている。
 一貫して「透明な自画像」と題されてきた絵は、5年の間にけれど徐々に新たな気配を加え、重ねてきた。今回展示される新作を見つめて、そのいくつかの絵に私は「からだ」を感じた。木の葉のように茂る目、正面や側面で透視される顔だけではない。白い光の粒子の流れる画面の方々に、思いがけない人体の部分を見る。けれどそのような視覚イメージにとどまらず、目を閉じて感じる自分の体、ふれあい揺れる他者の体といった視覚外の感覚もまた絵から訪れる。
 白い二つの横顔がある絵の絵肌に、やわらかい肌の、生きている肉の、細胞の気配が揺れている。その気配にこすれ、火照るように色が赤らみ、明るむ。
 心の宇宙を見つめる光の絵は、同時に心を宿すからだの宇宙を透視し、吸い寄せながら、自らの生命を暖め、広げている。