News Paper
2010年11月30日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

伝統に鞭入れ 現在に跳躍

―うつわから<空間>へ― 中村卓夫展
(2010年12月2日〜10日 新潟絵屋)
(2010年12月1日〜12日 砂丘館)


大倉宏(美術評論家)
中村卓夫展 「器になるコトをやめたうつわ」2010年


 昨年も開催された越後妻有のトリエンナーレで、うぶすなの家という古民家を再生し、陶芸家たちの作品を「埋め込んだ」家の、床の間の壁を波打つ陶壁に変えた作家と書けば、ああと思う人もあるだろう。
 金沢の陶芸家中村は父中村梅山(二代)を師として、作陶の世界に人生半ばで本格的に入ったという。九谷焼の本拠地で京焼の影響を受けた梅山窯の華やかさは、卓夫の仕事にも確実に受け継がれている。
 しかし父が伝統にさおさしつつ、時代の新しい感覚に鋭敏だったように、息子もまた時代に呼応する、違う表現を強く求めた。
中村卓夫展  秋に仕事場を訪ね、内藤廣設計の住まいと仕事場に接し、日本家屋の意匠を「現代」という鉈で削ぎ落とし、同時にその空間性を裸体で再生させたような場のなかで、どこかたたずむように自作と対峙する、中村の俯き加減の姿勢が強く心に残った。
 「器になるコトをやめたうつわ」と名付けられたシリーズを近年は追ってきた、うつわはうつろに通じ、茶碗にせよ花器や皿類にせよ、何かを保持する空隙を抱えたモノとして作られるが、用途が一義的になるうちに、うつろは見えなくなり姿形や意匠ばかり意識されがちになる。
 器に埋められたうつろを、器を鉈で割るように断ち切ることで、発火させた作品。平らな皿が、下から逆転した軸物のようにじかにたれ上がる「SUIHATSU」。
 常に過去に引き摺られ、歩調を緩めがちな伝統に、鞭を入れ、現在に跳躍させようとする。中村の俯き加減の目の鋭角は、伝統の愛好層にも、現代美術を好む人々にも、共に刺激的だろう。

中村卓夫展


会場写真は新潟絵屋のものです。砂丘館の展示写真はこちらから