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2011年1月22日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

3000枚の絵 気高い空間創造

3000 Prayers - 光の宮殿 アンティエ・グメルス展
(2011年1月22日〜2月6日 新潟絵屋)


大倉宏(美術評論家)
3000 Prayers - 光の宮殿 アンティエ・グメルス展


 新潟に活火山が現れ、火を吐き、噴煙を上げ、灰を降らせ始めた。
 山の名をアンティエ・グメルスという。
 繊細でアイロニーの香り漂う、詩的な絵が咲き乱れていた美しい高原が急激に隆起し、光のマグマがあふれ出したのは5年前のことである。青い蒸気の噴出に続き、まばゆい火柱が立ち、噴煙は小さなきらめく絵のかけらとなって降り、身体と精神の世界を透視する大画面のマンダラの溶岩流となって押し寄せた。
 一昨年の新潟での個展では千枚の絵を並べ、大きな「光の壁」を創りだした。小さな絵の制作は、大地の芸術祭でのインスタレーションや、国内外各地での個展など、活発な創作発表活動の間も継続され、ついに3千枚になった。黒一色に塗り替えられた小さな画廊にそれらが再び集合し、微細な光のさざなみの打つ「光の宮殿」を創りだしている。
 3千枚の絵はどれも似ているようで、違う。人生のひと時ひと時が違うように、光沢ある絵の具を用い、ガラス、鏡をはめ込んだ画面は、会場を移動するごとに不思議な光の揺らぎを生む。こんなに輝いているのに喧噪はなく、むしろ無窮の静寂が、無数の宝石に結晶し、青く、気高く澄み通っているかのよう。
 眼前に見えるものなのに、まるで眼後の、見えない心の深奥に視線が体が吸われ、そのはるかな底を流れる光の川に、舫綱を解かれた舟となって漂いだした気持ちになる。何という解放感。
 美しい活火山、アンティエ・グメルスの魂からあふれ出すとてつもないエネルギーの奔流に、心が揺すられ、力づけられ、慰められ、鎮められる。

3000 Prayers - 光の宮殿 アンティエ・グメルス展

3000 Prayers - 光の宮殿 アンティエ・グメルス展

3000 Prayers - 光の宮殿 アンティエ・グメルス展

5.0×5.0cm ミクストメディア、ミラー、金、銀、ラインストーン/キャンバス