News Paper
2011年4月20日 新潟日報 掲載
●
■
あーとぴっくす
伊津野雄二彫刻展
(2011年4月22日〜30日 新潟絵屋)
←「うた」2001年 ブロンズ
15,0×12.0×12.0cm
根底に豊かな「自然」の感覚
大倉宏
(美術評論家)
伊津野雄二の彫刻はとてもロマンチックだ。美しく、優しく、繊細で、強く、静謐感と清潔感があり、豊かに語る力を持っている。
けれども私が引かれるのは、加えて、それらの底にひそむ「自然」の感覚なのだと思う。つい最近、私たちはその自然の力のすさまじさを体験した。時におそろしい暴威をふるう自然は、それでも私たち生きるものを支え、はぐくむものでもあることを忘れてはならない。
今回の個展のために伊津野が用意したテーマは「航海」。海と季節をめぐる旅の物語だ。
水の揺らぎから生まれた波や風を象徴する、体格のいい女性像。そして風の歌から、古楽器を奏でる女たちが生まれ、音楽は翼あるもの―天使を呼び出し、季節は春から秋の庭へとめぐっていく。
その庭は作者の暮す、愛知県岡崎の美しい里山でもあるだろう。伊津野はその里山の時間に、例えば山岳の頂きや大海の底まで届く、はかりしれぬ自然の力を感受し、触れ、憧れる。そして、正しく畏れることを忘れない。
血のようにめぐる、この生きた自然の感覚が、彫刻に、物語に、絵空ごとではない、深みのある声を与えて、私たちの縮まった心に、自然にもう一度、虚心に向き合うためのささやかな勇気を、静かによみがえらせる。