News Paper
2011年11月23日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

静寂と光 ―橋本直行展
(2011年11月22日〜30日 柏崎市・ギャラリー十三代目長兵衛)

←「冬の集落」130.3×130.3
 キャンバスに油彩


波動となり伝わる自然の声 大倉宏(美術評論家)

 橋本直行の絵が、魅力を深めてきた。
 彼を以前「北の画家」と書いたことがある。
 特に新潟の風景に感じる独特の冷気の感触をそう表したのだが、橋本に「沖縄の絵もあります」と言われた。彼の沖縄シリーズは、これまたいかにも南国の風景で「北の画家」は「南の画家」なのでもあった。
 橋本の細密な写実は、一見平たんな画面の細部に、意外にも絵の具を盛り上げる。水に映る月光がよく見るとつぶつぶふくらみ、彫塑的なこの細部が、離れると見事に月の光になる。というより月光を見る気分になる。南の絵でも北の風景でも「いかにも」と感じさせるのは、絵のかもしだすこの「気分」だ。
 彼の住む寺泊近辺を描いた今回の絵。やはり新潟の風土的気分というべき「冷たさ」がみなぎる。絵に手を差し込むと、肉を越え、骨まで冷える心地がしてくる。けれど、その絵にこれまでになかった感じがある。冷えきった手の、指先に、暖かいもう一つの手がふれてくるような。
 筆遣いに微妙な柔らかさが見える。羽毛のような、微風のような、かすかなこの柔(じゅう)が、冬雲や枯れ木立の隙間に覗く空の青や、春先の土手や水の入った田の水面に、胸をしめつけるような既視感、なつかしさを感じさせる。
 人の暮らす土地のみずみずしい自然の声が、波動になって、伝わってくる。