News Paper
2011年12月2日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

長尾玲子展―市場のスケッチ
(2011年12月2日〜10日 新潟絵屋)




←「小松菜」7.0×12.0cm

 「ねぎ結束」7.0×15.0cm


新潟への愛情を刺繍に込め ユキノ進(美術愛好家)

 針で刺す、という行為は千人針に見られるように、愛や絆や連帯と関連するサインとなっている。縫う、縫いこむという作業の一針一針に気持ちがこもるのだろう。刺繍も同様に愛情のしるしであり、特に幼い子どもと母の深い心の結びつきを想起させる。
 今回は絵本作家でもある長尾さんが刺繍による想像力豊かなアート作品を出展。新潟の野菜と市場をモチーフにした約60点が並ぶ。ネギ、白菜、トマト、桃、カキノモトなど私たちにとって日常的に慣れ親しんだ野菜が、空想の中の自由な世界に描かれる。
 のぼり棒のようにネギにつかまり滑り落ちる子どもたち、ニンジンを追って飛び出したうさぎ型のリンゴ、とうもろこしのヒゲを三つ編みにする子どもなど、ついクスクス笑いたくなるようなユーモラスなアイデアがひとつひとつの作品の中にあって楽しい。
 また刺繍糸という制約のある素材を用いながら、野菜の葉の緑の繊細な質感、梅干しの表面のしわの微妙な色合いの濃淡などを、色彩鮮やかに豊かに描く表現力に感嘆する。
 長尾さんはもともと東京にお住まいだったが、2008年に新潟で個展を開いたことをきっかけにこの町が気に入り、現在は新潟に移り住んでいるそうだ。新潟の町と風土に対する深い気持ちが一針一針にチクチクと縫い込められている。そういった愛情を感じて、新潟に住むものとしてはちょっと誇らしく、うれしい。