News Paper
2012年10月4日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

長谷川徹展
(2012年10月2日〜10日 新潟絵屋)

←「WORKS」2012年
 アクリル/板 84.0×59.4cm


 
頭の中で描いた「跡」を形に 華雪(書家)

 白く塗られたパネルには、点とも短い線とも見てとれる鮮やかな青い「跡」が描かれている。「跡」の表面には刷毛目が残る。
 夏の終わりに長谷川さんを訪ねた。自宅二階のアトリエで、最近描かれた三枚の絵に囲まれて座る長谷川さんと会う。ここ数年、体調を崩され、出かけることも少なくなったと聞く。
 アトリエに下絵は見当たらない。「スケッチしないんですか」と訊くと、「しない」。そう、はっきりした声が返ってきた。「何度も何度も頭の中で描いてきてるから」。長谷川さんの潤んだ瞳は黒々として、見ていると深く吸い込まれそうだった。
 「こうやって」。長谷川さんは筆立ての刷毛を手にして傍のパネルに触れた。それまでかすかに震えていた手に力がこもるのがわかる。刷毛がパネルを押し、かたんと乾いた音がした。長谷川さんが繰り返し頭の中で描いてきたかたちが音になって聞こえたと思った。その小さな音が今もずっと耳に残っている。