News Paper
2013年11月14日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

中矢澄子あかり展 潟に咲く
(2013年11月15日〜30日、杜の蔵(新潟市江南区鍋潟新田))


 
古の亀田郷をあかりで幻出 田代草猫(俳人)

 「地図にない湖」と呼ばれた亀田郷も、今は田畑となり、広い道路が走る。住宅街が点在し、巨大なショッピングセンターもあちこちに建った。便利で快適。けれど、それはありふれた地方都市郊外の風景でもある。
 昔の風景が懐かしい。過ぎ去ったもの、滅びたものは美しい。中矢さんはあかりを用いて、かつてこの辺りで見られたであろうハスの花咲く水面を幻出させる。
 ノスタルジーだけではなく、腰や胸までどっぷりと泥に漬かりながら農作業をしていた人々にとっても、水に咲く花は美しく見えていたのではないか。日常が過酷でつらいものだった分、花はより美しく、蠱惑
(こわく)的に感じられたに違いない。
 中矢さんのインスタレーションは単なる郷愁を越えて、そんな心の妖しさまでも表現する。あかりのともる薄闇にはどんな詩
(うた)が流れるのだろう。潟と共に消えた植物や生物たちの嘆きか。それとも、古(いにしえ)の人々のささやきなのだろうか。