News Paper
2014年2月26日 新潟日報 掲載


 

野中光正展に寄せて
(2014年2月20日〜3月23日、砂丘館)
(2014年2月28日〜3月10日、新潟絵屋)


「131110」2013年 木版画、紙
50.0×38.0cm
「020308」2002年 油彩・水彩、綿布
90.0×59.7cm

 
型と揺らぎ 画面に同居 大倉宏(美術評論家)

 昭和初期の木造日本家屋である砂丘館に、野中光正の抽象絵画が飾られ、両者はしっくりなじむのではないが、奇妙な力で引かれ合い、同時に絵は場所からはみだそうとしつつ、そのことで場所を、見慣れたものからそうでないものへと、ずらす。
 野中は東京浅草の生まれ。10代から絵を描き出し、20歳の夏、生家が営む鉄工所で半日働き、残りの半日近辺の墨田区、江東区界隈をいきあたりばったりに歩き、目にする風景を描き続けた。高度成長期を支えた物作りの町の、油染みた活気の伝わる力強い素描が数点、砂丘館の中廊下に展示される。生活の場から始まった絵は、やがて「現代美術の場」にふれ作用を受ける。町の風景は次第に細部を失い、空白、空間を迎え入れて、抽象へ大きくカーブしていく。
 高度成長が終わるころ、野中は新潟の高柳町(現柏崎市)門出に移住し、2年間紙漉きを学んだ。20代から始めた木版画が今も続くが、それらはすべて門出和紙に刷られている。職人の町に育った野中は、その後、浅草に戻り制作を続けてきた。60代の現在も自ら顔料を擦り、調整し、描き、刷る。
 今回の展示は90年代の油彩数点と近作の木版画とドローイングを中心に構成される。木版画には刷られた上に手描き部分が加わり、ドローイングは下地に木版が活用される。「版」の作り出す「型」感が、荒々しい手の動きで揺らされる。がっちり感とぐらぐら感が綱引きをする独特の画面が、職人の手技が生んだ、日本家屋の堅牢な「型」をフレームアップしつつ、風を呼び込む。日本の家にひそむ「抽象美術」が呼び覚まされる。
 色が魅力的だ。強い、現代都市の色のようでいて、しっとりした木造家の渋さをひそませる。蔵のギャラリーには、同じ版から刷られた「色違い」の連作が展示される。それらを見ると野中の絵にあっては色も「動き」なのだと感じる。蔵の柱や梁などの、日本の家の陰影が、絵の色の動きにつられて、身をよじり、ささやき始める。