News Paper
2014年3月11日 新潟日報 掲載

ニイガタレビュー
 

星野健司彫刻展
(2014年2月6日〜3月2日、アートサロン環)


セバスチャン
 
ライダー・トリックスター
〜アマゾン〜
 
痛みに耐える美しい塊 山浦健夫(美術史家)

 彫刻家星野健司は、筆者が尊敬している彫刻家の一人である。昨年から場所をかえ、たびたび個展をおこなってきたが、アートサロン環(新潟市中央区、2014年2月6日〜3月2日)での展覧会を見てあらためていい作品をつくる彫刻家だと感じた。
 星野は多摩美術大学院修了後、生まれ故郷の新潟市西蒲区巻にアトリエを建て制作に励んできた。若い頃は、幾何学的な形態の抽象彫刻をつくっていたが、1990年代半ばから具象彫刻を発表している。
 例えば「ライダー・トリックスターシリーズ」では、競技用のオートバイに人物を乗せ組み合わせている。初めて作品を見たとき、現代の具象彫刻らしい良いものだと思った。
 また、同時期つくられた「神聖舞踏シリーズ」では神にささげる舞踏をしている人間の形態が興味深く見飽きない。
 これらの像の制作過程もおもしろい。星野の彫刻は金属の扱いに慣れていることもあるが、粘土を使ってつくりあげることをせず、鉄やステンレスを併用しながら、鍛金で膨らみを出し、溶接して完成させる。
 最新作の「セバスチャン」は、キリスト教の殉教者で矢をさされながら痛みに耐えている姿をつくった。東日本大震災の復興を祈りながら制作したそうで大きくて立派だ。わざわざ頭部をつくることをせず、皮膚など細部を再現することもしていない。純粋に塊として、彫刻として美しさを感じる。
 星野が大学で彫刻の指導を受けた早川巍一郎は、日本人で唯一ロダンの助手を務めた藤川勇造の教え子であった。「彫刻にとって最も大事なことは、第一に塊(マッス)、第二に動き(ムーヴマン)、第三に力(フォルス)だ。この三つがあるまとまりの中に渾然として流れていなくてはならぬ」という藤川の言葉は、時間を超えて星野の作品に生きていると思う。

相似形の廃墟
〜ケンスウロスのいる風景〜