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2014年3月21日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

パリの書店より ―林哲夫展
(2014年3月22日〜30日、新潟絵屋)

 
異国の街角さりげなく 斎藤健一(詩誌「穀物」編集人)

 落ち着いた斜光が歴史を感じる壁や窓ガラスに当たっている。パリの小さな書店の外貌である。=写真=。
 林哲夫は幾度もフランスの街角を歩く。彼の水彩、油絵は極めて言葉少なに語られている。
 対面し、話を交わす場合の態度と相似している。パリには古書店がたくさん存在する。古書と新刊を一緒に並べる店もある。さりげなく飾られた異国の書物は微風のなかに、その明色を溶かしているのである。
 前景の石畳の控えめな樹木、交通標識に見入るとき、ぼくは彼の温顔を自分のうちに発見するのである。「いやあ、お世話になっています」。こういう風に林は自然体を続け暮らしを送る。
 大西巨人の長編小説「深淵」のカバーイラストは林の作品。東欧の建築物、やや左に配したはめ込み型の窓が永遠の時間のごとく、ものさびしい影を落として描かれる。
 近著「古本屋を怒らせる方法」(白水社)は才幹を認める一巻だ。心のまま無尽に記す古書に寄せる愛情がここには隠されている。一方で、作品をおさめる額縁も自分で作製する彼である。長身でゆったりと歩く。3年ぶりの新潟での個展。「しわざと学殖の人」。これが人目を避けて抱くぼくの林評なのだ。