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2005年11月29日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

顫動するイメージに重み

白木ゆり新作展
(2005年11月26日〜12月6日 楓画廊)


大倉宏(美術評論家)
「ripeness-1」
エッチング、エングレーヴィング、
ドライポイント
32.0×30.0cm 2005年

 白木ゆりは注目すべき線の作家だ。
 4年前の楓画廊での個展で見たsoundと題された大きな銅版画の印象は強い。白い舞台で千人の舞踏家が、一斉にソロで踊り始めたようなざわめき。地に身を沈め、包むように触れてくるものを通して、見えないものの中に潜むものに耳を傾けていく。そんな状態、瞬間が、絵の姿で在る。
 一昨年の個展では、立ち位置の上昇を感じた。下半身から上半身へ、根や幹から枝の広がる空気へ。感官の移動とともに、絵の揮発感が強まり、軽やかさと優美が線のあわいに通いはじめたような。
 今回の新潟の個展では、ripeness(熟成)、core(核)というタイトルがつけられた作品に、枝と幹と根を、高さと深さをつなぐ、水路の出現を感じる。水路というよりは隘路の、強い抵抗を受けて、水はいたるところで溢れ、震えるこぶとなって絵を揺する。
 刷毛の髪に似た線のすき間から、これまでにない強さでイメージがわき出そうとし、同じくらいの力で引き戻される。イメージに届かない。イメージの顫動に、これまでにない、生き生きした重みを感じる。上と下、遠さと近さを、結ぶことの重さ。線を引く、描くという行為の体重。
 5周年を迎えた楓画廊の記念展。