n e w s p a p e r
2006年1月9日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

どっしりと構えていて軽やか

香器 ―香合・香炉・棗―
(2006年1月7日〜15日 ギャラリー炎舎)


田代草猫(俳人)

 原田捨六さんの香炉=写真=を見て驚いた。前から写真をみて知っていたつもりでいて「知る」と「わかる」では大違いなのだと改めて思い知らされる。
 香炉なのだから、それほど大きくはない。高さはせいぜい15、6センチといったところ。かたちは石灯籠を模したものか仏具のようにもみえる。
 しかし目の前に置かれてみると静謐さなどというよりもむしろ生々しく溢れてくる力を感じさせられる。よく眺めてみればハート形に穴が穿たれていたりとあちこちに遊び心が表れている。でも声高に新しさだとか個性などとは謳ったりしない。どっしりと構えていながら軽やかさも併せ持っている。土の色、台座や蓋のわずかな曲線にもおのずとつくり手自身が表れている。伝統的な形式を乗り越えて人間の手ざわりや息遣いが伝わってくるからこそ、焼き物が陶土の塊ではなく、作品として見る者に受け止められるのだろう。常に人の心を動かすものは、その作品から滲み出し溢れ出てくるつくり手自身ではないか。決してその作品自体の上っつらの新しさや美しさではないはず。この香炉に香がたかれる時、どのような優美な煙が上るのだろう。みてみたいものだ。同じく原田さんの蓮のつぼみの形をした香合も端正なたたずまいが美しい。
 今回の企画展は隠崎隆一さんや内田鋼一さん、加藤委さんといった強者とともに長岡の矢尾板克則さんも出品する。矢尾板さんの「小屋」は良くも悪くも本当にリアルな小屋そのもの。不思議と目が離せない。