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2006年3月31日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

ぬくもり感じる極彩色の朱

うるし・渡辺信二作品展
(2006年4月1日〜25日 岩室温泉綿々亭綿屋2Fギャラリー陌)


伊藤純一(新潟絵屋企画運営委員、建築家)
根来―風景

 越後の豊かな自然の中で育った夢が作者のモノ作りをかきたてる原点なのだろうか。漆というやっかいな工芸素材を使い、幾何学的に塗り込んだ中に点影を施し、色うるしを象嵌し研ぎを繰り返し作品が展開される。それは自らの意識を技術と感性により昇華させたものといえる。「根来―風景」はそのように原点から生まれた心象を、緻密な仕事と大胆な構図配色により仕上げられている。まさしく研ぎ澄まされ洗練されているが、見る人にとってはなにか懐かしさすら感じることができる作品だ。
 渡辺さんが使う朱はキトラ古墳壁画にも使われている朱と同じ水銀朱の顔料を、漆と練り合わせたもの。極彩色でありながらぬくもりを感じるこの朱に惹かれる時、私の心は無意識に安らぎを感じる。日本人の美意識の原点である漆で、誰もが持っている心を揺さぶる作品を作り続ける渡辺信二さんは、工芸家の域を超えた美術家であるといえよう。
 今回、日展出品作である屏風5点、「根来―風景」をはじめとした漆の魅力を最大限に感じることができる平面作品12点、そして近年新しい試みとして制作し続けている小型の立体作品など7点を展示している。日本人の心の奥底に脈々と存在し続けた感性を、それら作品を通して想起できることだろう。