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2006年5月4日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

例外なく漂う洗練された粋

野本久美染織展
(2006年5月19日〜28日 画廊Full Moon)


敷村良子(物書き)
草木染織シルクストール

 天女の羽衣のように軽く華麗な布、野本久美の染めと織りは鮮やかな技だ。天然の繭から紡いだ髪のように細い絹糸を、工房のある四国松山の梅、桜、ざくろ、柿など、野山の木や草花を原料に染める。庭には徳島産の藍も。時には違う色を用い、幾度も染め重ね、糸は深みのある色に仕上る。
 ストールなら数百本、着尺ならさらに多く千数百本の糸を組み合わせ、気が遠くなるほど複雑な織図を作り、一気に織り上げる。糸一本の間違いも許されない。緊張した作業の連続である。
 「私にとって染めた糸は、自然から与えられ、自由自在に組み合わせができる、私だけの絵の具のようなものである。(中略)飛鳥、天平時代から受け継がれてきた草木本来の持っている色が生かせるよう、より透明感のある染織をし続けていきたい」(野本久美、月刊染色α2002年6月号)
 その言葉通り、すべての作品に洗練された粋が漂う。泥臭さがない。これは野本が若いころ油絵を描き、現在も美術館通いを続ける隠れた努力の成果であろう。27歳で転身、故森島千冴子氏に師事してから30年の研鑚が作品に結実している。
 今回が新潟での初個展。着物のほかスカーフを中心に紹介する。ストール一枚が和装に限らずどんな装いもおしゃれに変える。