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2006年5月11日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

静かに流れる時間と空気

菅野くに子展
(2006年5月12日〜20日 新潟絵屋)


坂爪勝幸(陶芸作家)
「ジャンプ ステップ」

 彼女と作品に出合ってから、随分と時間がたった気がする…。
 彼女は、自身の手で紙を漉きながら、白い画面にはいつもきっと美しい色を想像しているに違いないのです。雪の季節に制作したと聞いたにもかかわらず、言葉を拾いながら目の前にある彼女の作品を言葉でなぞっていると…木々に小さなエメラルドグリーンを付ける季節、風の止まった夜遅くに夜の空気が、微かに青い香りを漂わせるようなちょうどそんな空気を紙の上にのせているのです。
 夜の青空に満月に満たない光悦月が、美しく澄んだ黄色でコラージュされて夜の硬質な空気を和らげてます。そこここにちりばめられた赤やイエロー、ブルーそしてグリーンは夜の優しさで包みこまれていて、月を背に静かな時間と空気を楽しむように佇んでいる人がいます。そしてゆっくりとした足取りで歩き始め、夜の散策を楽しむのです。
 人は、美しい月の出ている夜の優しさに包まれると、昨日の出来事や子供のころの同じ季節を過ごした「その時」のことを思い出したりするものなのです。だからよく見ると、微かにかすれたり、重なった線やスクラッチ、記号、アルファベットなどを色彩の狭間で読み解いて僕は、自分の日記を見つけて読むこともあるのです。
 でも困ったことにその日記は、年号や月日はバラバラでごちゃごちゃになっているけど一瞬の百分の一秒だけ「その時間」に戻れるような気持ちにしてくれるのです。作品の色の下には、百万とおりの日記が隠されていて誰もが、自分の日記を見つけることが、できるのです。