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2006年5月27日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

一人一人、顔に深いドラマ

茂本ヒデキチ新作展“NEO BLACK STROKE”
(2006年6月2日〜10日 新潟絵屋)


吉田智宏(編集者)
「B-FACE」

 平素、翻訳ミステリー小説を編集している私が氏に魅せられ、茂本氏の画集を出版させていただくことになった。畑違いの自分だが、絵のパワーに引き込まれてしまったという格好だ。
 初めて見た氏の絵は雑誌「TARZAN」のポスターに描かれた男性の上半身のヌードだったと記憶している。じっと眺めていると、静止しているはずの男性の体がまるでポージングをしているかのように動き出す、そんな錯覚にとらわれた。うねるような筆遣いでたくましい筋肉が表現され、大胸筋、三角筋、上腕二頭筋、緻密かつ大胆に折り重なる筋肉の饗宴はまさに圧倒的。一枚の絵からこれほどドラマチックなダイナミズムを感じたことはなかった。
 現在、氏はイアン・ランキンというスコットランドの作家の作品、リーバス警部シリーズの装画を描いている。この中年刑事は人生のあらゆる辛酸をなめた登場人物。描かれた顔の線、皺が、その生きようを表すように一筆一筆重く刻み込まれている。装画には、色味が美しいとか、構図が均整がとれているとかいうよりも、絵が物語り、読者にドラマを感じさせてくれるかどうかが重要。絵は小説では語りえない、もう一つのドラマを語ってくれる。
 今回の個展で「顔」をテーマにした作品を多く発表するという。そこには一人一人の深いドラマが描き込まれることだろう。