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2006年9月12日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

神仏が見詰める風景の芸術

細川文未昌「コノハナノサクヨル」展
(2006年9月12日〜20日 新潟絵屋)


敷村良子(物書き)

 日本全国どの村や町にもある神社仏閣、石仏、道祖神。折にふれて人々はその前でこうべを垂れて祈り、写真家はしばしば聖なる姿を被写体としてとらえる。では、これらの信仰の対象は、いかな風景を見ているのだろう、それらに囲まれたとき、私たちにはどんな気分がもたされるのだろう。いわば神仏の視線上にある風景を細川文未昌氏は写真としてとらえた。17世紀スペインの宮廷画家ベラスケスが絵画「ラス・メニーナス(侍女たち)」で王の肖像ではなく、王が見ている侍女たちを描いたように。
 細川氏は1963年新潟市生まれ。立正大学文学部哲学科を卒業後、アメリカ留学、オハイオ大学芸術学部写真学科で修士号を取得した。現在はプロの写真家として東京で活躍している。96年から個展多数。代表作は2002年フィリップモリスアートアワード大賞を受賞した「アノニマスケイプ行旅死亡人の風景」。いわゆる行き倒れの人々の遺体発見現場の写真と死亡広告を百年分提示した作品である。
 私はニューヨーク市のPSI(ピー・エス・ワン)コンテンポラリー・アート・センターでこの作品と出合い、バイロンの言葉通り、まさに小説よりも奇なる人間の生き死の事実をかいま見た。同作品は05年「アノニマスケイプこんにちは二十世紀」として平成写真文庫から出版された。
 いわば神仏の見詰める風景で構成した今回の個展、見る者は新しい芸術の誕生に立ち会えるだろう。