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2006年9月18日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

風景の微妙な一瞬拾い描写

橋本直行・早川ゆーこ兄妹展
(2006年9月15日〜24日 画廊Full Moon)


大倉宏(美術評論家)

 橋本直行が油彩で描く写真のような風景には微妙な一瞬が拾われている。
 その不思議に、私の目は立ち止まる。
 落ちた椿の花が水面につくる小皺。雪をかぶった砂浜の沖に注ぐ雨の影。月に輝く小さい青い花の浮かぶ暗い草むら。見上げた梢を明るませる光。ガジュマルの木陰で動かない牛。その向こうの絵の具を塗り付けたようなマリンブルーの海。
 どの絵も絵のように美しい。そして写真のように微細なときのすきまに封じられた出来事を映している気配。「絵のような」に「写真のような」が接近し、接触する。ひそやかな衝突音。
 月夜の風景の暗い木立が描かれた部分に、顔を近づけてみる。盛り上がった溶岩を静かに均したような肌が硬い。数年前の個展より、橋本の絵はさらに絵らしく、絵の具というどろりとした物質を、筆ですくって塗り重ねて作りあげるモノらしくなった。
 絵の風合いが深まった分だけ、拾われる一瞬の「時間の幅」が決まってきたような感じが不思議で、面白い。
 シャッタースピードを速めるほど、時の一点から、前後の時はそぎ落とされる。
 映像機器がそうして浮上させるものに似たものが、物を根気よく丹念に重ねて完成していくモノに、囲いこまれ、立ちすくんでいるよう。
 一瞬は、見ることが客観に移行する前の、主観と溶け合うひそかで微妙な時間のこと。生真面目でクリアな橋本の風景に溶けている、この一瞬の、ひんやりとした微妙の手ざわりが好きだ。
 シンプルな線と色が魅力の早川ゆーことの兄妹展。