n e w s p a p e r
2006年10月3日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

見つめ語りかける人と自然

クラエ・ナパポン銅板画作品展
(2006年10月2日〜10日 新潟絵屋)


広田郁世(画家)
「Birds」

 クラエ・ナパポンが文部科学省の奨学生として来日したのが1999年。現在はタイ王立美術大学バンコク校の助教授を務め、版画家として活躍する。来日中、日本人の自然に対峙する多くの作品に出合い、自国タイの自然をあらためて見つめ直すようになったという。鳥や花、木や草などを表現することで自分の存在を見つめ、常に自然の中にありたいと思い続ける彼の作品群には、「少年時代」の面影を色濃く残すものがある。
 へびや鳥と話をしたこと、なかでも突然病気で亡くしてしまった兄との思い出は常に自然とともにあった。肉親を失うという思いは作品にも彼のタイにおける活動にも表れる。少年院の子供たちやストリートチルドレンを対象にワークショップを行い、彼らに向き合うことで思いを共有し自分を見つめてきたのだろうか。
 彼が描くどこか懐かしさを感じる素朴な動植物たちもまた静かに何かを見つめ話し掛けてくる。タイに伝わる古い伝説を絵本に描きおこしたり、子供たちを対象にした読み物などの絵や点字の本の制作など、タイ政府からも表彰を受ける多忙な作家である。
 今回は人と自然をテーマにした作品を展示。奔放な力強いタッチで腐食された線のもの、おだやかな色に包まれたもの、紙に写し取られる色や線は、その奥底に刹那を秘めた人や自然の声のようでもある。