n e w s p a p e r
2006年10月5日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

時流に迎合しない白の世界

白陶展 坂爪勝幸
(2006年10月6日〜15日 画廊Full Moon)


菅野くに子(画家)

 坂爪工房を訪ねたのはもう十年も前になる。画家のアトリエしか知らなかった私は陶芸家の仕事場とはどんなものか興味津々であった。小高い丘をはうように作られた穴窯や高い天井に梁がむき出しになった大作りな建物に圧倒された。山に続く裏庭には鉄さび色の硬質な坂爪氏の大きな作品が無造作に並べられ不思議な空間があった。
 間もなく陶芸教室入門が許された。心地よい土の感触に感動していた自分を思い出す。坂爪氏の「自分の作った皿に自分の料理を盛る。こんな贅沢はないよ」の一言に私のいびつな器たちは、今でも食卓をにぎわしてくれる。坂爪氏は制作者である前に生活者である。夏には工房の周りの草刈に汗を流し、そしてシェフかと見まごう料理の腕前で、そこに集う仲間をもてなしてくれる。
 何年か前、味噌造りのお誘いを受けた。その日すでに十人ほどの仲間が準備に取りかかっていた。昔の豪農の味噌造りはこうであったろう光景が満開の桜の下でくり広げられた。大豆はもちろん無農薬、水は湧き水で有名などっこん水、そして老舗の麹、どれを取ってもこだわりの物ばかりである。
 まさにその時、坂爪氏の陶芸の原点を見た思いがした。よい素材を良い環境の中で熟成させる極上の味噌のように、健全な嗅覚と人間としての平衡感覚が、時流に振り回されない力強い作品を生み出していると確信している。今回の「白陶展」は坂爪氏のさまざまな白の世界が観られるすばらしい機会になりそうだ。