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2007年10月31日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

ぬくもり伝わる親しげな顔

斎藤ゆう ガラス展
(2007年11月2日〜10日 新潟絵屋)


渡辺隆次(画家)
「生まれ出たかたち」
2007年 ガラス
W:22×D:12×H:23cm

 
 ガラス作家として活躍する斎藤ゆう氏の「ツパイ工房」は、八ヶ岳山麓にある。近くにはリゾート地の清里もある。広大な裾野一帯は、氏の裏庭といってもいい。北東背後に“獅子岩”と呼ばれる分水嶺があり、南側は太平洋、北側は日本海へと流水を分かつ。
 南麓は年々自然が失われつつあるものの、氏は、静かに足音をしのばせる獣のごとく、しばしばふもとの樹海に身を沈め、よく遊ぶことのできる男でもある。多摩美大卒業後、東京を経てここに移り20年、創作の源であるこの地の風土と深くかかわってきた。
 いうまでもなくガラスの原料は硬い。千数百度にまで上るカマの中で溶解し、取り出せば急速に冷却する。そのしばしの間に、氏はナイーブな作家の総体を吹き棹を通して一気に吹き込んで作品を生み出す。作品の一つ一つからは、どこか親しげな顔が透けてみえ、もとになるケイ石や石灰石などのぬくもりまでが伝わってくるようだ。硬くてもろい透明なソーダ・ガラス、その質感は、やはり神秘だ。
 また、風土とガラスへのおもいは、円環する四季を通して制作してきた美しい映像作品(DVD)からも、伝わってくる。静ひつさをたたえる音空間は、氏の友人でもある広瀬豊氏の作曲。
 このたびの個展は、溶解されたガラスが、錦秋の“獅子岩”より信州を経て越後で信濃川を下り、新潟へと届けられた、斎藤ゆう氏からの透明な贈り物である。