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2008年1月26日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

ゼロからスタートする潔さ

偶形 小川宏
(2008年1月29日〜2月13日 長岡市・ギャラリーmu-an)


佐藤秀治(美術家)

 
 小川の作品に敬服したことがある。意表を突き、スパーンと気持ちよく響いたのである。そのことの重要性や意味の解釈の追及を半ばに放置したまま、その後何度か発表を見逃している。ひとりの作家に同行し続けることは物理的に困難で、皆勤賞的な寄り添い方が必ずしもベターとはいいがたい。ニュートラルな視線で、少し冷ややかに距離を置いて接するバランス感覚を持ちたいと思う。
 小川の作品つくりがシリーズや路線によるところが少なく、思いもよらぬ方向から明確に切り込んでくるところが多い。多くの作家と親交があり、多様な表現に接し触発されることが多く、今日の表現の素地を形成させてきたものと思われる。
 常にリセットされて、ゼロからスタートするという潔さは、小川表現をまとめ、固定化しとらえようとする保守的な鑑賞者を煙に巻くこととなる。またいつもホームランを打ち続けるわけでもないし、展示した作品にだけに主張があるのではなく、生きざま自体を表現と受け止めていただきたいものである。
 弁舌が立ち制作の周辺や支えとなっていることが伺えて作品鑑賞時は作家在廊を確認して行かれることを薦めたい。今度の新作は、墨、和紙を使用したモノプリントの作品27点を展示する。アクリル板に筆で墨を置き、伏せた和紙にバレンで刷り上げる。そこに生まれる偶形と空間がテーマと語る。かつて本格的な版画の刷りを習得し、その刷りの奥深さや技術の面白さに魅せられていた日々のことと現代アートの手法を通して、小川ワールドを展開する。