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2009年2月4日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

時間の積み重ね語る銅版画

特集展示 白木ゆり90年代
(2009年2月6日〜16日 楓画廊)


田代草猫(俳人)
「a.t.m.-10」

 
 今年は西暦2009年。ということは二十一世紀に入ってからもうこれだけの年月が経ってしまったのか。自分が生まれ、学生生活を送っていた二十世紀後半が、言葉の響きの上では、アールヌーヴォーの十九世紀末とさほど変わらない、何だかとっても「ムカシ」になってしまっているようで、この事実にいささか唖然とさせられてしまう。流れては去る現実の時間に境目や節がある訳ではない。けれど数字の上に重ねられた自分個人の時間の堆積はさまざまなものを考えさせられる。
 最近は水彩やドローイングで作品を発表することの多い白木さんだが、今回の1990年代に製作された銅版画作品を発表することによって、彼女もまたさまざまに思いを巡らせ、より大きなものを見据えることができたのではないだろうか。作家として活動し続け、常に新しい作品を生み続けている現在、十数年も時を経た作品を前にしてその時代の自分自身を、そして銅版画という技法自体を客観的にみつめ直せば、リアルタイムでは分かることの無かった事柄もみえてくるのだろう。若いころは良かった、あのころに戻りたい、なんてセンチメンタルな感情は白木さんには無いのではないか。今回の個展は、過去の中から未知なる新たな自分を発見した白木さんの驚きと歓びが感じられる。音や大気といった目に見えないものをモチーフにすることの多い白木さんだが、作品は強靭な力が光に姿を変えて、ある時は眩しく、ある時は密やかに戯れているようだ。銅版画は時間もプレスされているから美しい、と誰かが言っていた。
 いく重にも積み重ねられた時間が、それぞれに輝いているからこそ、描線の一本一本がきらきらしているのだろう。