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2001年3月17日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

透明感のある穏やかな色彩
野中光正展
(2001年3月12日〜20日 新潟絵屋)

田代早苗(新潟絵屋企画運営委員)

「0053-000605」 2000年
 油彩、綿布、パネル
 63×45.5×3.5cm

 西欧で抽象画という概念が生み出される遥か以前から、日本人は茶碗の肌、襖などにおける住空間、衣類のさまざまな文様や格子模様で、欧米とは比べものにならないほど抽象的表現に囲まれていた。
 にもかわらず抽象絵画に「洋画」「現代的」という先入観を抱いてしまうのはなぜだろう。
 野中光正氏の作品はまさに「和」の抽象だ。そして抽象絵画にありがちな観念臭が感じられないのは、和紙の町として知られる高柳町に2年間住み、紙漉きはもちろん農作業までやったのだという、そのためか。
 透明感のある穏やかな色彩はどこかノスタルジックで古い千代紙を思わせる美しさだ。それでいて作品自体が甘ったるくならないのは曖昧であることを拒むようなその構成にある。一歩間違えたら単に冷たい印象を与えるだけになりかねない長方形の色面。しかし、あたかも色で和音を生みだすように、色彩でリズムを創り出すように面と色とがハーモニーを奏でている。そこにはもう抽象とか和とか言葉はいらない。物を見ることの歓びだけがある。
 また作家にとってもこれらの作品は、小手先の技術やアタマだけの表現ではない、もっと内なるもの、生活し、生きてゆく実感の中から生み出されたものなのだろう。月並みな言い方になってしまうが、だからこそ、どの作品にも確かな人間の体温が感じられるのだ。