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2001年10月24日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

肌理の身ぶりきわだつ油彩
原陽子展
(2001年10月18日〜30日 羊画廊)

大倉宏(美術評論家)

 2年前の銅版画の個展では光のような、壁のような、川底のよどみのような色のひろがりに線や形の断片がたゆたっていた。生活のすきまからこぼれた、ちょっとしめった砂みたいなタイトルが心にのこる。
 今回は思いがけず版画に油彩を加えた展示。その油彩がとてもいい。
 原の銅版画はどういう刷りをしているのか。抵抗感のある、といってざらつきすぎもしない独特の肌理(きめ)がある。線や形のまとまりつながりの、また色の対比のゆるさは、この肌理の声をきわだたせる。
 その人の描く油彩をみて、私は油絵というのは肌理の絵なんだということを、あざやかに思いだした。油絵の具はねばっこい。筆のこまかなうごき、ゆれ、ためらい、いらだち、ジャンプを、そのねばりが肌理に逐一微妙なものは微妙なまま、くっきり伝えて、きざみつける。
 一見あらく描かれた画面に繊細な情感がながれている。目をよせると、肌理の身ぶりがすごくゆたかなのだ。気まぐれでチャーミングで、でもどこかあたたかい人の目のうごきのように。
 油絵のタイトルはぜんぶ「揮発したもの」。今回は版画もふくめて、くもり日めいた灰色のトーンがめだつ。前回のこい色味のレベルが下がり(揮発して)水没してたものの頂部が見えてきた感じ。この人の絵はゆっくりと、歩いている。