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2001年12月24日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

つぶやきで地域活性化事業
浦川原村横住888枚の窓
(2001年11月3日〜11日)

大倉宏(美術評論家)

 東頸城郡浦川原村の山あいの集落で、晩秋の10日たらずの間、おどろくべき光景が出現した。
 家という家の窓から桟が消え、うすいブルーの地に、いろいろな言葉がくっきりと活字体で浮かびあがったのだ。
 名前なんか一度も呼ばれたことないわ/出征した友人の大半は戦死した/横住はみんな仲がいいのがいいね/雪の日三日間停電になりろうそくの生活でした/お茶のまんかねー/ここはいまのままでいい、そっとしといてもらいたい…
 住む人のつぶやきや会話の一部のよう。外をへだてる壁の、光を入れ外をのぞく穴の窓に、なかの一片が、やわらかいまま拡大され掲げられてある。遠近法の逆転した絵を見るふしぎ。
 字を見ていると、大きすぎる額縁である家が目にわりこむ。と、住む人の気配や人柄や個性までがその(ただの家の)姿ににじんで、どきどきする。50数軒をつかれたように見て歩き、気づくと早い山の夜色がまわりにたちこめていた。
 浦川原の別荘に幼いころから訪れていた「現代美術家」の原高史と親しい村職員の発案で、地域活性化事業の一環として行われたイベントという。原が一軒一軒の家族との会話から言葉を引きだし、パネルにそえられた絵(人のシルエットや動物のシンプルなイラスト)は住民たちが彩色した。
 実現までのスリリングなストーリーの一端をうかがう。住民たちは最後になり非常に興にのったという。そうだろう、外の私にこんなに面白いのだから、いちばん楽しんだのが村人なのはまちがいない。私の見たなかでもっともわかりやすい「現代美術」。そして印象の深度は、思いのほか深い。昨年ひらかれた「大地の芸術祭」には、このような「作品」はひとつもなかった。