n e w s p a p e r
2002年2月9日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

「目正月」にふさわしい作品
第23回 公募新潟県工芸会展
(〜2002年2月11日 新潟三越7階)

田代早苗(新潟絵屋運営委員)

 

 「鑑賞する」という行為はなんと贅沢なことだろう、としみじみ思うことがある。
 木工や塗り、染めといった職人の技が日常から消えて久しい。しかし、それは工芸作品が用の機能から解放され、純粋に鑑賞される「作品」となる自由を与えられる契機だったのではないか。
 一つの技術が生まれるためには、長い時間をかけて培われた伝統と歴史がある。絵画、彫刻といったいわゆる「美術作品」との違いは、一個人の創造物であることを超えて、その膨大な時間と技の蓄積もまた同時に味わえることではないだろうか。
 現実には素材におもねり表現としては弱い作品、見た目の派手さによりかかった作品、己が技術の自己満足に淫する作品なども少なくない。
 しかし、今回出品された長谷川与四三氏の「炭火窯変壷」のひとつ間違えたら平凡にも堕しかねないギリギリのラインの穏やかで豊穣なフォルム。渋谷美恵子氏の陶器の重力を感じさせない伸びやかな線の「待春」。
 そして鈴木重信氏の木工「一位矩冊筥」の滑らかな木目の肌、それとわからないほど四方へゆるく落ちてゆくカーブ。決して奇をてらうことなく、表現としてはむしろ地味なくらいでありながら不思議と心に響く。
 こんなときは「鑑賞」などというよそよそしい言葉より、「目正月」という古い言い回しの方がふさわしいだろう。優れた工芸作品とは古きよき日本の心を現代によみがえらせたものなのだから。