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2002年7月17日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

完成された確かな“存在感”
矢尾板克則展 ―陶漆器面に描彫
(2002年7月13日〜7月21日 ギャラリー炎舎)

田代早苗(新潟絵屋企画運営委員)

 ドアノブを持つ手が、まるで子供が描いたような天真らんまんな描線で彫り込まれている。今回出品された箱型のやきもののひとつだ。
 「ドアを開けたら違う世界、みたいな感じが出したかったんですよね」と矢尾板さんが言う通り例えば知らない場所へ通じるドアを開けるとき、プレゼントの箱を開くとき、作品を手にするとそんなわくわくした感覚が胸にあふれてくる。
 門外漢の私でもやきものとは自分の手に持たなければ味わうことができないのだと納得させられた。一枚の皿でも裏返してみればまるで違った表情をみせてくれる。色彩は穏やかだけれど暗くはなく、くすんでもいない。温かみを感じさせながら澄んでいる。だからこそ裏返し、角度を変えてみたときにさまざまにその表情を変える。やわらかな色のぐい呑みをよくよく眺めてみれば自動車(というより幼児語のブーブーか)が描いてある、そんな茶目っ気のある作品もあるのだ。はじめは好きな言葉や歌詞を書き込んでいた、というアルファベットも今はあまり意味を持たせないようにしているというが、イタズラ書きのようにみえながら印象的なアクセントになっている。
 矢尾板さんのやきものには、30代という彼の若さに似合わないほど完成された確かな存在感がある。土くささと都会性、野生と洗練。相対する要素を絶妙なバランスで併せ持つからこそ矢尾板さんのやきものはみるものを、わくわくさせてくれるのだろう。