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2002年7月29日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

心安まる軽やかな画面
戸川淳子展
(2002年7月25日〜7月30日 羊画廊)

田代早苗(新潟絵屋企画運営委員)

「しぐれ時」
45.5×53.0B
キャンパスに油彩
2002年

 ただ一人、大きな木の下に佇ってみる。周りには誰もいない。劇的なことなど何一つ起こりそうにもない。けれどそこには爽やかな風が吹き、木もれ日が繊細な影を落とし、葉ずれが波音のように響き、柔らかな湿気が辺りを包み込んでいる。
 戸川淳子さんの個展はそれらの目に見えるもの、見えないもののニュアンスやドラマを丹念に平面へ置き換えたものだ。そして絵画に女性的なるものと男性的なるものがあるとするなら、これはまさに女性のエロティシズムではないか。
 作家が女性だから、という単純な理由ではない。表現が穏やかで、攻撃的、刺激的ではないから、だけでもない。
 「光」「空気」といった実体を持たない、むしろ無機的なものが触覚、嗅覚などの五官を通じて知覚され、表現されたものと意識させられる。だからこそ見る者は反対にそれを記憶し絵画を通じて語る作家を、作家の肉体を意識せざるをえないのではないか。
 とまあカタイことを言わずとも視覚をたおやかな画面に遊ばせるのは楽しく心地よい。ちょっと欲を言わせてもらえば画面を少しキレイにまとめようとしてはいないか。軽やかな画面は暑苦しい季節、さわやかで心安まるのだけれど、一本の木で森の深さを表現することだってできるのに、とファンの一人としては少しゼイタクなお願いをしてしまう。