n e w s p a p e r
2002年9月13日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

目に見えぬ大切なもの漂う
杉原伸子展
(2002年9月6日〜14日 楓画廊)

田代早苗(新潟絵屋企画運営委員)

「夜間飛行」 岩彩、和紙 42.2×110.0B 2002年

 「空気のような」とは存在感の無いものに対する常套句だが、この目に見えない空気こそが命あるものを支え、地球を生命の星たらしめている最も大切な要素だ。その空気を絵画でどう表現するのだろうか。
 杉原伸子さんの個展が開かれているこの画廊は二階建てになっている。一階には絵本の一ページを思わせる暖かな色彩と親しみやすいモチーフの作品が並べられている。「空気」は色や形を柔らかくぼかしてはいるが作品の前面に表れてはいない。
 しかし二階に展示された作品はまさに大気、そしてそれに育まれた生命を強く感じさせる。
 特に「夜間飛行」と題された一連の作品は映画「未知との遭遇」に出現するUFOを思わせる物体が浮遊するさまを描いたものだがSF的というよりもっと深い物語性がある。まるで夜の闇をやんわりと水蒸気に満ちた空気が包み込んでゆくように色彩は淡く、描線はその色彩に溶けてゆくかのようだが作品としての存在感はむしろどの作品よりも強い。そして実際の画面のサイズよりも広い空間が感じられるのだ。
 かって杉原さんは屋久島の海岸で和紙を使ったインスタレーションを行ったそうだが、平面作品にとどまらないその活動が作品の大きさ、力強さに通じているのだろうか。和紙は呼吸する紙なのだという。これほど空気を表現するのにふさわしいものはないだろう。