n e w s p a p e r
2002年11月12日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

画面から音が聞こえてくる?
林孝彦展
(2002年11月1日〜11月12日 羊画廊)

田代早苗(新潟絵屋企画運営委員)

「2002―風紡―6p」66.5×34.0B
エッチング ed.40 2002年

 音が「かたち」として感じられる、そんな体験をすることが時たまある。
 例えば夏の新潟を練り歩く祭り行列の太鼓。耳を傾けるうち、いつしか太鼓の音が大きな躍動するひとつの塊に、笛の音が細く流麗な曲線として知覚の中で還元されてゆく。とりわけ太鼓や笛といった和楽器の場合、記憶よりもより深い魂の民俗的な部分にダイレクトに働きかけてくるからこそ、その作用が強いのではないだろうか。
 林孝彦氏の作品をみながらふと、そんなことを思い出した。氏は「画廊は私のライブハウス」と書く。1961年生まれにして既に個展の回数が100回を超えた、という氏にとって作品は常に自分自身の生々しい表現活動の結果、という意味だろう。
 だが音楽表現の場であるライブハウスという言葉を使ったのは伊達ではあるまい。「2002―風紡―6p」=写真=と題された二段に分かれた作品はブルーの上段で線は菊が花開くように、爆発する小宇宙のごとくに外部への動きをみせ、赤の下段では渦巻く水のような流れをみせる。一本一本はむしろ繊細で細密な線が絡み合い、重なり合い、あるものは飛び散り、あるものは沈んでゆく時、音のない画面に激しいパーカッションや笛の音が聞こえてくるような気がするのだ。今回はより東洋をイメージした題の作品が多いけれど氏のもっと深い部分から「和」の部分が滲み出ているように思えてならない。