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2002年11月18日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

絵の根にあるみずみずしさ
鈴木時治・油絵個展
(2002年11月18日〜24日 新潟市東出来島・アートサロン環)

大倉宏(美術評論家)

「黒い犬」

 筆にリズムがある。
 リズムに乗って聞こえてくる声は生き生きして、どこか儚く、明るく、ほのかに悲しげでも、響きの上澄みみたいなところの、異質なものが、微妙にブレンドされた感触に目が揺れる。
 個展の主催者(ハンセン病回復者と故郷・新潟を結ぶ会)から送られてきた画集を見て黒い犬の絵と、ギターを弾く少女の絵に引かれた。犬の絵には力が、ギターには歌がある。実際に絵を見たら、花もいい。
 色に未消化な部分があるし、額も私ならもっとシンプルにする。とも思ったけれど、後で思い返すとそういう不満な部分は後景に沈み、澄んだ気分の空気ばかりが心に残っている。きっと絵の根のそれはみずみずしさなのだろう。
 高原の風と泥のにおいに、描いた人の置かれた場所を連想する人がある。連想されなければならないと思う人もいる(と思う)。でも絵は時に、そんな連想さえもしぶとく利用して、思いがけなく遠くから飛んでくる。
 こつんと、何も知らない人に突きあたって、震えさせたりする。