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2003年2月19日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

うまいタイトルもまた楽し
小沢かほる展
(2003年2月14日〜2月25日 楓画廊)

田代早苗(俳人)

「arrow 」エッチング
96.0×76.0B 2002年

 作品のタイトルはシンプルな方がいい。たとえ長くても作品とうまく響き合っているタイトルもある。しかし短くても、作家のベタベタした思い入れたっぷりのタイトルでは、作品本体も安っぽく感じてしまうのは私だけだろうか。もともと美術作品は「見える」ようにちゃんと表現すべきものであって、タイトルに安易な説明をさせるべきではないと思うのだ。
 とはいえ上手いタイトルにしばしばニヤリとさせられてしまうこともある。小沢かほる展の「arrow 」=写真=と題された作品。arrow―つまり英語の矢、あるいは矢印だが、どこにもそれらしい線も鋭い形態もない。オオサンショウウオかヘビのような生物が尾を咥えてぐるりと回転しているような不思議なかたち。黒に近いオリーブグリーンは爬虫類のウロコか、顕微鏡で見たプランクトンのようにもみえるが、決してグロテスクではない。どしんとした塊として描かれていながら、不思議な運動感、もっと言うなら新しい季節にうごめく生命の躍動を感じさせられる。
 小沢かほるさんにタイトルの由来を聞けば「矢印をどんどんいじっているうちにできた形」とのこと。なるほど、矢印の方向性は違うかたちで作品の奥に潜まされていたわけだ。こんなしゃれたはぐらかしならうれしい。
 この感性は他の作品の随所に垣間見られ、まさに春らしい若々しさと瑞々しさに溢れた個展だった。