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2003年2月28日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

春の祭典らしい多彩な作品
おひなさま〈的〉季節移行のフォルム
(2003年2月22日〜3月3日 ギャラリー炎舎)

田代早苗(俳人)

 「おひなさま」という言葉にとらえられてしまうと、河本太郎の蓋物のごろりとした形=写真=は意外に思われるだろう。しかし蓋を開けてみれば穏やかな外側とは印象の異なる、ひやりとした感触と色。冬の名残の空気が詰められた季節の玉手箱だったのだと納得させられる。
 生命の死に絶える冬から誕生の春へ、季節は劇的に移り変わる。この時期に女子の幸福を祈り、生命の繁栄を祝うひな祭りがあるのは歴史的、呪術的な意味よりも人間の生物としての生理にかなっているからに違いない。
 そんな春の祭典にふさわしい作品が約100点、賑やかに並んでいる。もちろん「おひなさま」の言葉通りの坂爪勝幸の陶雛、平野照子の可愛らしい犬筥も面白い。さらに男女和合にまで解釈を広げた森岡成好の作品がみせるユーモラスなエロスには誰もが、くすりとさせられるだろう。
 いかにも春の土から虫が這い出すさまを思わせる「蠢(うご)く」の文字。うすだなおみの作品はその名もずばり「蠢(しゅん)」。真白な肌にぽつぽつ開けられた穴から内側の深紅が覗く。小さいながらも、こちらは清楚なエロチシズムを感じさせる。
 真木弘姫の一連の作品は土そのものの存在感の凄さだ。朽ち木か土くれそのもののような形でいながら、女性という性そのものの力強さまで表現しているように思えてならない。