n e w s p a p e r
2003年3月14日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

初々しい表現、建築空間激突
アートサイト岩室温泉2003
(2003年3月8日〜3月16日 岩室温泉)

大倉宏(美術評論家)

波紋のような模様が目を引く
砂の布のアート
(岩室温泉「富士屋」)

 岩室温泉の旅館のロビーや庭に、武蔵野美術大学の学生の作品がある。
 場所と作品が独立しながら、視線を通わせる風情。年齢も出身も違う人たちが言葉少なに、楽しげに会話しているよう。
 村、旅館組合、大学の共同企画で、大学サイドで活躍したのが、学生中心の実行委員会で、多くが募集に応じた1年生だったという。学生は事前に担当の旅館等を訪れ、場の空気を呼吸し、それから卒業制作展で作品を選び、作者や地元との交渉、コーディネートを行った。
 絵画、立体のほか、吹き抜けに広がる布のインスタレーションなど、個々の作品にも魅力がある。それらを選び、場所につなげた、なにより若いコーディネーターたちの地道な作業が、イベント全体に生き生きした親和感を生み出したようだ。
 「美術学校」制度が制作者教育を中心にしすぎた結果、美術家が社会から孤立する現状が生まれたが、その美術学校の1年生たちが、調整者(キュレーター)としてこれほどの力を発揮しうることを証明した例として注目したい。
 いろんな旅館の風情を縦覧するように見て歩けるのも、こんな催しならでは。プロの手がけた建築空間や庭や調度が、学生たちの初々しい表現に語りかけられ、羞じらったり、微笑んだりしているように見えるのも楽しい。
 企画にたずさわった方々に拍手を。

※同イベントは岩室温泉の16の旅館などが会場。最終日にはファッションショーなども開催された。