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2003年3月28日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

どこか日本の書の匂い漂う
ジョン・グラハム展
(2003年3月21日〜4月1日 羊画廊)

田代早苗(俳人)

Etching
26.0×34.0B
2002年

 子供たちと戯れ、牧歌的なエピソードで綴られた良寛の生涯は「天衣無縫」という言葉で語られることが多い。しかし良寛の書をみつめていると、そんな言葉だけでは括ることのできない、さまざまなものを通過してきた透明な知性、しなやかな力強さを感じさせられる。良寛にとっては子供たちとの遊びも、書も、もっと大きな意味での「あそび」だったに違いない。
 ジョン・グラハムの作品もちょっと見ただけでは、まるで子供の落書きだ。1962年にダブリンで生まれたこの作家の無邪気な童心が線を引かせ、画面を創り出しているように思えるかもしれない。だが、反復し、微妙に変化してゆくその線は遅すぎず、速すぎることのない彼自身の揺ぎないリズムに従い、熱すぎず、冷たすぎることのない彼自身の体温を確かめながら描かれているようだ。それ以外の色彩は彼にとって必要ではなかったのだろう。普通なら無機質さを感じさせられる白、黒、グレーのモノトーンの画面は雄弁でいてうるさくはない。要らない暗さも湿り気もない。二つに分割された画面は心地よい緊張感を与えている。シンプルでいて、見る者を飽きさせない。彼の作品に、どこか日本の書の匂いを感じてしまうのは私だけではないのだろう。福岡では書家との二人展が企画されているという。彼にはもっと大きな「あそび」の世界を広げていってほしいと思う。