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2003年4月9日 新潟日報 掲載

あーとぴっくす
 

岡野里香 陶展
(4月1日〜13日まで、新潟市内野山手2 ろば屋)

田代早苗(俳人)

 「今度、この人の個展、やろうと思うんですよ」と店主の鹿子沢さんからみせていただいた一つの湯呑みは、とても印象的な色だった。乾いた草原の草の陰で一頭の素早い獣(けだもの)がしなやかに身を翻して走り去っていくような。作者の内部で表現したい事柄が溢れそうになりながら、かろうじて器として成り立っているような。さり気ない形でいながら心に残る作品だった。
 それから待つこと一カ月余り。岡野里香陶展は期待を裏切ることなく面白い作品が並べられている。
 「浮遊するかたち」と題された作品群は、ごく淡い薄紫の肌に柔らかなオレンジ色が滲むように浮かんでいる。形は有機的で、どこか生き物の骨、それも海岸に流れついた大気に白く晒された骨に見えてくる。決して不気味なわけではない。個性的な形でありながら奇を衒った印象でもない。題名の通り、ふわふわと風に舞っていきそうな軽やかで繊細な美しさだ。
 「作品をつくる時、頭のどこかにいつも生と死の事を考えている」という作者の言葉に納得させられる。ここで語られる死は暗く、重いだけのものではない。生と分かち難く存在する生命の形態のひとつとしての死であり、この作品ではその再生すら感じさせられた。
 彼女の作品はどこか始原の風景を思わせる。人類がヒトになる以前の荒々しくも豊かな太古の空気の気配がした。